キヤノン御手洗氏が「あわや取締役を退任」の衝撃 3月の株主総会で賛成率50.59%と薄氷の再任
一歩間違えば、そのまま取締役を退任――。そのような事態に見舞われたのは、キヤノンの会長兼社長CEO(最高経営責任者)である御手洗冨士夫氏だ。事が起きたのは、2023年3月30日の定時株主総会だった。
キヤノン取締役の任期は1年。そのため毎年3月の定時総会で取締役の選任・再任が議案として諮られる。選任・再任されるには、株主の過半数の賛成を得ないといけない。
ところが、今年の総会での御手洗氏再任に対する賛成率は50.59%。ぎりぎりの再任となった。御手洗氏は1981年から取締役を務めているだけに驚きは大きい。証券アナリストからも、「もし再任されていなかったら株価への影響などどうなっていたのだろう」と戸惑いの声が聞こえる。
昨年から賛成率低下の兆候
足元のキヤノンの業績に不安はない。医療機器や監視カメラ、半導体露光装置などが好調で、2022年12月期は5年ぶりに売上高が4兆円を超えた。コロナ禍で引き下げた配当も、以前の水準に向けて増配が続く。株式指標も大きな問題があるようにはみえない。
御手洗氏再任への賛成率が低くなった原因として考えられるのは、「取締役の多様性の欠如」だ。キヤノンは社内外どちらの取締役も男性のみのため、女性の不在を問題視した株主が再任に反対票を投じたとみられる。2022年の総会から、実はその傾向があった。
社外取締役を含めてキヤノンの取締役は5人。その選任・再任に対する賛成率は2022年から低下していた。なかでも御手洗氏の賛成率は、2021年までは約90%だったのが2022年には75%に急低下した。ほかの取締役も賛成率が下がっている。
株主の中でも影響力を持つ機関投資家の賛否を公表資料に基づいて調べた。2022年の総会では、国内の機関投資家のほとんどが御手洗氏の再任に賛成していた。それに対して海外勢は、反対が目立つ。確認できた反対理由のすべてが「取締役の多様性の欠如」だった。