シャープ「2600億円赤字」を招いた原因に残る疑問 再び連結化した液晶パネル製造会社を巨額減損
SDPをめぐる株主構成の変化は混迷を極める。そもそも同社は2009年4月にシャープディスプレイプロダクトとして設立された。当時は「世界初の第10世代マザーガラスを用いた大型液晶パネル工場」(同社Webサイトより)として、鳴り物入りのスタートを切った。当初はソニーも株主に名を連ねた。
SDPの最盛期は2011年3月期。売上高は2400億円、営業利益は259億円に達した。だが、翌期に営業赤字に転落すると、2016年12月期には492億円と赤字額が拡大する。価格競争力に優れた中国メーカーが複数参入し、とくに大型液晶パネル製造の採算が、悪化の一途をたどったからだ。
シャープはSDP株の大部分を2012~2016年にかけて鴻海の創業者、郭台銘(テリー・ゴー)氏の投資会社に売却している。連結業績を安定させるのが目的だった。結果、SDPは過半を握った鴻海の子会社となっていた。
その後、シャープは2021年2月にSDP株の完全売却を発表した。ところが「譲受人の強い要望により」、発表からわずか2週間後に売却を撤回。売却予定先については非開示を貫いた。
手のひら返しは続く。2022年2月に今度はSDPを完全子会社化すると発表。「中国が米中貿易摩擦の最中にあることから(中略)SDPは米州市場向けのパネル供給において優位性が期待できる」という大義名分も掲げた。
このときのプレスリリースで明らかになったSDPの株主構成は、以前と様変わりしていた。
シャープの持ち分はピッタリ2割。残り8割は「World Praise Limited」というサモア籍の企業が保有しているとされた。このサモア籍企業の筆頭出資者(83%保有)は、当時のSDPで代表取締役を務めていた邱啓華氏。テリー・ゴー氏の投資会社は株主から消えていた。
不透明な買い戻しのプロセス
完全子会社化は異例ともいえるスピードで進んでいく。通常、M&Aでは協議開始から数カ月間かけて交渉を行い、価格やそれ以外の条件について詰めていくのが一般的だ。とくに、親会社やその関係者が絡む案件では、社外取締役で組織した特別委員会が価格算定などの評価を行うことが多い。
だが、シャープは協議開始発表からわずか2週間後の3月4日に株式取得契約を締結した。この間、価格交渉などを行ったという記述は、少なくとも開示資料には存在しない。
価格決定の過程も不透明だ。価格の算定を担当した大和証券は、SDPの企業価値を約390億~約780億円と見積もっている。算定数値に2倍の開きがあり、明瞭とは言えない。
なぜこんな値付けになったのか。それは、算定に用いられたディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法(DCF法)が将来の収益予想を企業価値に反映する方式だからだ。
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