主役の猿桜は「角界ぶっ壊す フォー!」と、中指まで立てて旧態依然に対して悪態をつく問題児でもありますが、「目標800万円」と自分で書いた通帳を見ては、父親の借金のために食いしばる親思いの面も見せます。そんな憎めないキャラクターの猿桜が横綱までのし上がろうとする姿に惹きこまれてしまうというわけです。
演じるのが、初めて主演を任された元プロ格闘家の一ノ瀬ワタルであることも注目されています。ヤンキー映画『クローズ ZERO II』(2009年)で俳優デビューして以降、出演作を重ねている役者ですが、決して誰もが知っている元格闘家でも、俳優というわけでもありません。チャレンジングなキャスティングとも言えるでしょう。でも、作品を見れば、はまり役であることに納得できることで作品への信頼度まで上げています。
ピエール瀧に小雪ら実力派ぞろい
はまり役は主演の一ノ瀬に限りません。ヒットしている2つ目の理由は、キャスティングの妙にあると思います。猿桜のいちばんの理解者という重要なポジションの清水役は、実力派の染谷将太が演じ、猿桜に向かって「君は土俵に生きるべき人間だ!」と言い放つくさいせりふも説得力のあるものにしています。
またマーベル映画の『デッドプール2』に出演経験がある国際派の忽那汐里は今どき女子の新聞記者・国嶋役を好演しています。四股の稽古を見て「コスパ悪すぎ」と、相撲にダメ出しするような生意気さは猿桜といい勝負です。彼女の成長物語としても楽しめます。
ほか、脇を固める役者もそろいにそろっています。「土俵にはね、金・地位・名誉、全部埋まってるんだよ」というせりふがあまりにも自然体に聞こえる猿将親方役のピエール瀧に、女将役は存在感のある小雪、そして「異常の上に成り立つ異世界、それが角界なんだ」などと解説がいちいちわかりやすいベテラン記者で国嶋の上司・時津は田口トモロヲが演じています。また猿桜の父親役のきたろうと母親役の余貴美子は感情を揺さぶってくる演技で魅せます。
大人の事情抜きに、ストーリーとキャラクター設定を固めたうえで、適材適所の役者を起用し、かけるべきところにコストを費やすというNetflixのやり方は、今回のようなドラマにこそ生きてくるとも言えます。
というのも、テレビや映画では企画すら通しにくい類の作品だからです。視聴率や興収を見込んでキャストを中心に考えると、大相撲の力士が稽古を重ねる物語は成立しにくく、取組シーンまで本格的に作ろうと思えば思うほど、予算が嵩んで製作費を集めにくいとなりがちです。
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