Netflix｢相撲ドラマ｣世界ヒットの番狂わせ期待 ヤンキー力士のスポ根｢サンクチュアリ｣痛快さ

つまり、以前だったら諦めざるをえないような作品だったわけですが、リアリティーのある映像を求めて時間とコストをしっかりかけていることが作品からはっきりと伝わってきます。終盤にかけて、鍛え上げられていく力士たちの肉体美がまさにそれ。体格や身体能力を重視して選ばれた一ノ瀬はじめ力士役の役者たちは、撮影の1年前から肉体改造の専門家やプロのスポーツトレーナー、そして栄養士の指導を受け続け、1年以上かけた稽古や撮影中も適宜肉体づくりを行っていたそうです。相撲監修として元大相撲力士・維新力浩司を迎えて、限りなく力士に近づけることに挑んだ結果が表れています。

「土俵にはね、金・地位・名誉、全部埋まってるんだよ」というせりふが印象に残る猿将親方役のピエール瀧（画像：Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中）

3つ目のヒットの理由はこの視覚的なリアリティーさにあるでしょう。力士同士の絡みに少年漫画のノリも多いなか、子ども染みた作品に終わらせていないのは欧米並みのクオリティーを求めた役作りにもあると思います。撮影後も力士役のキャストのために手厚く「減量プログラム」のケアが行われているほどです。

グローバルTOP10入り

大一番の取組シーンで使われたスローモーション撮影によって、力士役たちの鍛え上げた肉体がさらに美しく、迫力さを増して魅せているのも印象的です。実際の相撲もこんなカメラワークで見ることができたらまた面白くなるのではと思わせもします。

アクションシーンに定評のある江口カン監督らしい表現であり、競輪の世界を熱く描いた監督デビュー映画『ガチ星』からの延長線上に「サンクチュアリ」があるようにも思います。『ガチ星』を担当した金沢知樹氏が脚本を手がけており、主人公が人生崖っぷち設定であることや、猿桜のライバル力士・静内の秘めたる過去のストーリーなど、『ガチ星』で登場する人物と似通った部分があるからです。オリジナル脚本のスポーツドラマで再び2人がタッグを組み、世界配信を前提にスケールを高めて新たに挑戦した作品になったと言えそうです。

江口監督自身も「挑戦から始まり、挑戦だらけで、最後まで挑戦だった」と、公式にコメントしています。「撮影が進む中でキャストたちが文字どおり体当たりで肉体改造や稽古に励み、また演技においても懸命に取り組み、その過程でリアルな涙や、怒り、そして成長が起こっていくことを目撃していった」とも語り、カメラに収めたその熱の高さが真っ先に感動好きの日本人に刺さっています。

実際に全世界配信開始から約1週間後の集計では、人気TOP10ランキングに浮上したのは日本のみでした。ただし、日本で勢いよく視聴されたことから、グローバルTOP10ランキングの10位の位置につけ、さらにアメリカ時間の5月17日に発表された2週目集計ではグローバルTOP10ランキング6位に上昇しています。トルコ、キプロス、クウェート、ギリシャ、香港、日本の6カ国・地域でTOP10入りし、熱が広がり始めています。

漫画原作でもなければ、固定ファンを持つ役者に頼っていずとも、日本独自のストーリーと役者の演技、そしてこだわりある映像表現でどれだけ勝負できるのか、そんな角度からも注目することができそうです。決着をつけずに終わらせるなかなか攻めたラストに不満の声があったり、プロモーションが弱めというマイナス要素もありますが、最終的に世界ヒットの番狂わせまで狙えるか、期待したくなります。

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