神野の場合は運が味方したが、「スポーツ選手」という夢をかなえるためには、中学の部活動がひとつのターニングポイントになる。高校から“スポーツエリートの道”に進むことができるかは、中学時代にかかってくるからだ。そして、中学での結果は、選手の才能以上に、顧問の「指導力」の”差”が大きい。
高校は「部活動」を基準に学校を選択することもできる。しかし、中学は私立以外、自由に学校を選ぶことはできない。中学で質の高いスポーツ指導を受けられるかどうかは、事実上“神頼み”である。せっかく才能があっても、素人監督に見いだされないということもある。そういうことは避けなければならない。なぜなら、「スポーツ選手」になることは、多くの男子生徒の夢なのだから。
未経験の競技を教える先生が4割超
その一方で、中学校の先生にとっては部活動の負担が大きいという問題が、最近、議論されている。未経験の競技でも顧問を任されるケースも多く、しかも低賃金で土日の指導を強要されているというのだ。
日本体育協会「学校運動部活動指導者の実態に関する調査報告書」(2014)によると、自分が経験していない競技の顧問を中学校で45.9%、高校で40.9%もの先生が受け持っている。自治体によって、手当の額は違うものの、土日の部活動は日額3000円。先生も本音を言えば、休みたいだろう。
そこで提案したいのが、土曜日の部活動「指導」を元選手に委託することだ。素人監督よりも、元経験者。できれば、生徒たちがあこがれる舞台に立ったことのあるトップ選手がいいだろう。
春になると、多くの選手の「引退」情報を耳にする。大学で競技をやめる選手は、一般企業に就職。実業団選手の場合も、その大半が「一般業務」に集中することになる。監督やコーチを希望する選手は多いが、そのイスは非常に少ない。そのため、トップレベルの選手の多くが、引退後は競技の世界から自然とフェードアウトしていく。長年培った知識やスキルは、誰にも引き継がれないのだ。
日本野球機構(NPB)が、プロの若手選手を対象に実施した「セカンドキャリアに関する意識調査」によると、引退後に最もやってみたい仕事のトップは、「高校野球の指導者」で75%だった。そのほかにも、「大学・社会人の指導者」(64%)、「プロ野球監督・コーチ」(60%)と、直接、野球界に携わる仕事が目立った。しかし、高校の監督をする場合、規制緩和で2年間になったとはいえ教員経験が必要(以前は10年間)で、セカンドキャリアとしては、なかなか難しい挑戦となる。
毎年100人以上がユニフォームを脱ぐJリーグの選手たちは、引退後は自分の実績を活かして、サッカースクール事業を立ち上げるケースが多い。いずれにしても、トップアスリートたちは、自分たちがやってきた技術を誰かに教えたがっているのだ。
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