賃上げでも「離職が減らない」残念な会社の盲点 ハーバードで学ぶ従業員満足度を高める方法

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たとえば、上限1万円まで出してでも欲しいと思う製品があったとしましょう。この場合、WTPは1万円になります。この製品が6000円で買えたなら、その顧客は4000円得したことになります。これが顧客満足度(または顧客歓喜)に該当します。そして、その製品1個当たりのコストが3000円であれば、企業のマージンは3000円となります。

問題は、従業員満足度です。従業員満足度とは、報酬とWTSの差額のことです。WTSとはwillingness to sellの略語であり、「売却意思額」と訳すことができます。この概念はまだ日本では定着していない比較的新しいものです。そのため、WTSに関する論点は見逃されることが多く、注意が必要です。特に賃上げをしながら競争に勝つためには、WTSの理解が決定的に重要になります。

WTSは、従業員がその企業で働いてもよいと考える最低限の報酬のことを意味します。たとえば、製品1個作るのに1時間かかり、時給として最低、1000円あれば働いてもよいと考えていたとしましょう。すると、WTSは1000円となります。

ここで議論を単純化するため、サプライヤーはおらず、製品の生産にはこの従業員が1人だけ必要だと仮定しましょう。上の例を引き続き用いると、製品を1個作るのにその従業員に支払われる賃金は3000円となります。つまり、企業が負担するコストは、この従業員に支払われる賃金になります。

このとき、従業員のWTSは1000円である一方、実際に支払われる時給は3000円になるため、この従業員は2000円得したと感じます。この分が従業員満足度となります。賃上げして競争に勝つためには、この従業員満足度がカギとなるのです。

(出所:『「価値」こそがすべて!』の図をもとに筆者作成)

給料を上げて失敗するパターン

まず給料を上げて失敗するパターンはどのようなものか検討してみましょう。それには主に2つのパターンがあります。第1に、そもそもWTSが報酬にきわめて近い水準にあるにもかかわらず、報酬を十分に引き上げない場合です。

つまり、従業員満足度が十分に大きくならないと、その満足度が顧客サービスの向上や製品品質や生産性の向上に結び付かず、結果としてWTPに何の変化ももたらさないことになるケースです。すると、コスト上昇分を吸収するために価格を上げれば、顧客歓喜はその分減少し、売り上げは低下します。

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