ワーク・エンゲイジメント--組織を元気にする“攻め”のメンタルヘルス対策とは
-- では、正真正銘のワーク・エンゲイジメントを高めるためには何が必要でしょう。
ワーク・エンゲイジメントは、「個人の資源」と「組織/仕事の資源」と呼ばれる二つの要素によって決まります。個人資源とは、心理的ストレスを軽減したり、モチベーションをアップさせたりするための原動力となる、その人自身の内的要因のこと。楽観性や自尊心、自己効力感などがこれに含まれます。
-- 臨床心理士として、実際に多くの職場で働く人の心のケアにあたってこられました。
とくに重要なのが「自己効力感」です。新しい課題にチャレンジする際、「できそうだ」「きっとできる」と思える見込みや自信の源になるもので、オバマ大統領のいう“Yes, I (We) Can!”のような感じでしょうか(笑)。この自己効力感が強い人は、何事にも前向きに取り組むことができますから、いろいろな知識を学べ、成功体験も得やすいんです。すると、仕事が楽しくなって活き活きするし、自己効力感もさらに高まっていく。小さくてもいいから、自分自身の努力で成功した体験を積むことが、自己効力感を鍛える最大の原動力になるんです。
-- 「個人資源」を、自分でアップさせることができるんですね。
もちろんできます。ロールモデルを設定するのも効果的だと考えられています。ただ、誰をモデルにするか、選び方には留意しないといけません。会ったこともない憧れのスーパーヒーローはロールモデルになりにくい。自分よりも少しキャリアが上で身近な先輩や上司など、ちょっと頑張れば手が届きそうな目標を設定するといいでしょう。そのメリットは、どんな努力がどういう結果につながっていくのかを間近で学べることにあります。
-- エンゲイジメントを決定するもう一つの要因、「組織/仕事の資源」についてはどうでしょうか。
仕事の負担を減らす・仕事の負担の悪影響を緩和する・モチベーションを高める、この三つの役割を果たす組織内の有形・無形の要因を「仕事の資源」(組織資源)と呼びます。具体的には上司・同僚のサポート、仕事の裁量権、パフォーマンスに対する評価、トレーニングの機会などがこれに当たります。この仕事の資源と個人資源には密接な関係があり、仕事の資源が充実すると個人資源もアップします。さきほど、自己効力感を鍛える最大の原動力は成功体験だといいましたね。これもメンタルヘルス対策としては、その人自身の努力だけにまかせず、本人がうまく成功体験を積めるように、また仮に失敗してもそこから何かを学べるように、周囲の上司や同僚がサポートしてあげるべきなのです。
■メンタルヘルスは企業のパフォーマンスに直結する経営資源
-- 個人資源と仕事の資源がともに充実し、ワーク・エンゲイジメントが高まると、組織や個人にはどのようなメリットがもたらされるのですか。そこが肝心なところですね(笑)。先行研究によれば、ワーク・エンゲイジメントが高い人は、心身ともに健康なだけでなく、仕事に前向きに取り組む、自発的に行動する、職務や職場への満足感が高いなど、組織の活性化や生産性向上に資する傾向を示すこともわかっています。たとえばあるファストフードチェーンでの調査では、従業員のワーク・エンゲイジメントが高い店舗やチームほど、売上げが上昇したというデータが出ました。ホテルやレストランにおいても、施設内の従業員のワーク・エンゲイジメントの高さと、利用者の満足度の高さに相関関係がみられたという報告があります。こうした客観的事実を見るにつけ、経営者や人事労務部門の方には、働く人のメンタルヘルスが企業の業績やパフォーマンスを左右する重要な経営資源でもあることに、もっと注目してほしいと思いますね。