花粉症地獄の日本「森がスギだらけ」になったワケ 岸田政権がついに花粉症対策に取り組むが…

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また、脱炭素社会や持続可能な社会の構築のためには、社会や経済活動の中で木材を効果的に活用していくことが不可欠である。スギ林をなくして全部広葉樹の森にしてしまえば、建築材はすべて外材にたよるか、そもそも木材以外の材料を使うしかなくなるが、それは持続可能な日本につながるだろうか。

日本の森林は保全するが、代わりにどこかの国の熱帯雨林を破壊することで日本の木材需要をまかなうというのは地球規模の問題の解決にはならないし、そもそも経済の仕組みとしても大きな問題であろう。

重要なのは「バランス」

ここで大事なのは、(国際政治と同じように)やはりバランスである。

森林は、木材資源の宝庫であると同時に、環境という公益性の高いものでもある。かつての拡大造林政策のようにやみくもに人工林を広げるのではなく、木材生産のための生産林と環境保全のための環境林を区別し、環境林は天然林に近いものに転換し、生産林では効率的で持続可能な林業を行う必要がある。

木材の自給率も高め、外材に依存しすぎないことも、経済安全保障上重要である。樹種のバランスも大切だろう。もちろん、花粉症対策のために花粉の少ないスギを使うのも重要な対策だ。

ただ、そもそも少花粉品種のような品種改良は、スギ自体の遺伝的多様性(個体差)があるから可能なことであり、花粉が少ないとか、成長がいいとかいう理由で、特定の遺伝子をもった個体だけをクローンにして増やすのは生態系にとって問題が多いので注意が必要だ。環境の変化によって一斉に全滅するなんてことになりかねない。

花粉症対策の話からだいぶ遠くに来てしまったが、この花粉症問題の背景には、戦後の日本社会と林業木材産業、そして地球環境問題、はては遺伝的多様性といったさまざまな問題があることを忘れるべきではない。残念ながら(?)花粉症対策は一面的には解決できないのである。

岸田首相は関係閣僚会議を開いて対策を検討していくということなので、ぜひとも全体を俯瞰しながら、花粉症対策も、林業振興も、持続可能な社会への取り組みも、総合的に進めていってもらいたい。

亀山 陽司 著述家、元外交官

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かめやま ようじ / Yoji Kameyama

1980年生まれ。2004年、東京大学教養学部基礎科学科卒業。2006年、東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了。外務省入省後ロシア課に勤務し、ユジノサハリンスク総領事館(2009~2011年)、在ロシア日本大使館(2011~2014年)、ロシア課(2014~2017年)など、約10年間ロシア外交に携わる。2020年に退職し、現在は森林業のかたわら執筆活動に従事する。北海道在住。近著に『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』(PHP新書)、『ロシアの眼から見た日本』(NHK出版新書)

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