敵と味方を明確にしない人が結局は損する理由 「安全策ばかり選べる」などと思ってはいけない

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また君主は、真の味方あるいは真の敵になるとき、つまり、一方に味方し他方に敵対するという姿勢を明確に打ち出すことで人々から尊敬される。それは、中立の態度をとるよりずっといい結果を招く。

たとえば近隣の二人の有力者が一戦を交えた場合、いずれどちらかが勝利する。その勝者はあなたにとって恐るべき存在となるか、そうでないかのどちらかだ。前者の場合、あらかじめ立場を明確にしておかなかったなら、あなたは必ず勝利者の餌食になる。負けたほうも、その成り行きに一時は溜飲を下げるだろう。

そしてあなたは誰かに保護を求める名分もなく、身を寄せる場所もなくなってしまう。なぜなら、勝者は、逆境のとき助けてくれなかった者を味方にはしたがらず、敗者の側も、武器をとって自分たちと運命をともにしようとしなかった者など受け入れるはずがないからだ。

かつてアンティオコスは、アイトリア人の要請でローマ人を追い払うためにギリシアに侵攻した。このときアンティオコスは、もともとローマ軍の味方だったアカイア人に使節を送って、中立を守るように言った。一方ローマ軍は、アカイア人に自分たちのために武器をとってほしいと説得した。この問題は、アカイア人の評議会で議論されることになったが、アンティオコスの使節が議場で中立を勧めると、ローマの使節はこう反論した。

「彼らは戦争に介入しないことこそが有益だというが、諸君の利益をこれほど無視した言い分はない。中立の立場をとれば、君たちは誰からも感謝もされず尊厳もえられず、ただ勝利者の餌食になるだけだ」

中立の道を選ぶ君主はほとんど滅ぶ

このように味方でない者が中立を要求してきたり、味方の側が武器をもって立ち上がれと迫ってきたりすることは、いつでも起こりうる。そのとき、決断力に欠ける君主は、当面の危機を回避しようとして中立の道を選ぶことが多い。すると、ほとんどの君主が滅んでいく。

逆に、ある君主が、勇敢にも一方の側に立つと態度を明らかにした場合、加勢したほうが勝利すれば、その勝者が強力で、あなたは彼の意のままにならざるをえなくなったとしても、彼はあなたに恩義を感じているので、そこに友好関係が結ばれる。人間というものは、味方になった者を虐げて恩知らずになるほど不誠実ではない。

そもそも勝利をつかんだといっても、どんな気遣いも必要ない、ましてや正義に関する配慮をしないですむというような完璧な勝利などありえないのだ。

加勢した者が負けた場合でも、あなたはその者から迎え入れられ、可能なかぎりあなたを助けてくれるだろう。やがてまた運命が好転したときには、それを分かち合う関係になるはずだ。

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