経済人類学者が描く「ポスト資本主義経済」の勝算 「より少ないこと」が世界に豊かさをもたらす

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過剰な生産を減速し、不要な労働から人々を解放すれば、週間労働時間を短縮しながら完全雇用を維持し、所得と富をより公平に分配して、国民皆保険制度、教育、手頃な価格の住宅といった重要な公共サービスへのアクセスを拡大できる。

これらの方策が人々の健康と福利に強いプラスの影響を与えることは繰り返し証明されてきた。それらは社会の繁栄のカギであり、経済成長と社会の進歩を切り離すことを可能にする。その証拠は実に啓発的だ。

ポスト資本主義経済の誕生

ここで強調しておきたいのは、脱成長はGDPを減らすことではないということだ。GDPというダイヤルを逆方向に回せばいいというわけではない。

当然ながら、不必要な生産を減らし、公共サービスを非商品化すれば、GDPの成長はスローダウンしたり止まったり、ことによるとマイナスに転じたりするだろう。

だが、そうなっても問題はない。通常、マイナス成長は不況を招くが、不況とは、成長に依存する経済が成長を止めた時に起きるものだ。不況は無秩序で悲惨だ。

しかし、今わたしが訴えているのは根本的な変革である。経済をこれまでとはまったく異なる経済へ――成長を必要としない経済へ――シフトすることなのだ。

それを実現するには、債務システムから銀行システムまでのすべてを見直し、人々、企業、国家、さらにはイノベーションそのものを、成長に取り憑かれた息苦しい状態から解放し、より高い次元の目標に取り組めるようにしなければならない。

実践的にこの方向へ進んでいくと、新たなエキサイティングな可能性が見えてくる。際限のない資本の蓄積ではなく、人間の繁栄を中心に組織された経済、ポスト資本主義経済が誕生する。より公正で、公平で、思いやりのある経済だ。

今、わたしたちは岐路に立っている。科学を無視して旧来の世界観を維持するか、それとも世界観を根底から変えるか。賭け金はダーウィンの時代よりはるかに高額だ。科学から目を背ける時間の余裕はない。今回の選択には、わたしたちの命がかかっている。

(翻訳:野中香方子)

ジェイソン・ヒッケル 経済人類学者

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Jason Hickel

英国王立芸術家協会のフェローで、フルブライト・ヘイズ・プログラムから研究資金を提供されている。エスワティニ(旧スワジランド)出身で、数年間、南アフリカで出稼ぎ労働者と共に暮らし、アパルトヘイト後の搾取と政治的抵抗について研究してきた。近著The Divide: A Brief Guide to Global Inequality and its Solutionsを含む3冊の著書がある。『ガーディアン』紙、アルジャジーラ、『フォーリン・ポリシー』誌に定期的に寄稿し、欧州グリーン・ニューディールの諮問委員を務め、「ランセット 賠償および再分配正義に関する委員会」のメンバーでもある。

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