経済人類学者が描く「ポスト資本主義経済」の勝算 「より少ないこと」が世界に豊かさをもたらす

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同じようなことが今、起こりつつある。GDPの成長と生態系破壊の関連を示す証拠が増えるにつれて、世界中の科学者は自らのアプローチを変えてきた。

2018年には、238名の科学者が、「GDP成長を放棄し、人間の幸福と生態系の安定に重点を置くこと」を欧州委員会に要求した。

翌年、150カ国以上の1万1000名を超える科学者が、「GDP成長と富の追求から、生態系の維持と幸福の向上にシフトすること」を各国政府に求める論文を発表した。

ほんの数年前まで、こうしたことは主流派では起こりえなかったが、今では驚くような新しいコンセンサスが形成されつつある。

成長からの脱却というアイデアは、思うほど荒唐無稽なものではない。わたしたちは数十年にわたって、人々の生活を向上させるには成長が必要だと教えられてきた。しかし、実はそうでないことがわかってきた。

重要なのは「所得の分配」

あるポイントを超えると――高所得国はそのポイントをとっくに超えている――GDPと社会的成果(アウトカム)の関係は破綻し始める。これは特に驚くようなことではない。

GDPは実質的な市場価格で測定された総生産の指標である。問題を引き起こしているのは総生産量の増加ではない。わたしたちが何を生産しているか、人々が生活に必要なものにアクセスできているか、所得がどのように分配されているか、が問題なのだ。

特に重要なのは所得の分配で、現在、それはきわめて不平等だ。考えてみよう。最も富裕な1%(全員が億万長者)の年収の合計は約19兆ドルで、世界のGDPのほぼ4分の1に相当する。驚くべきことだ。

わたしたちの全労働、採取される全資源、排出される全CO₂の4分の1は、金持ちをいっそう金持ちにするためのものなのだ。

高所得国は、人々の生活を向上させるために、さらなる成長を必要としない。必要なのは、資本蓄積のためではなく人々の幸福のために、経済を組み立て直すことだ。

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