「非正規は仕事をしない」公務員の分断を生む根因 「公務員制度の歪み」が両者の理解を妨げている

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鈴木さんは3年前に相談員に採用されたとき、「任期5年」と言われていた。それが今年1月、急に上司から「実際は3年だったので、3月に公募を受けて」と言われた。待遇の低さに加えて「非正規があまりに軽んじられている」と失望し、退職した。

「利用者さんには申し訳ない気持ちです。『なぜ辞めるの?』と聞かれるたびに、公務員の仕組みのおかしさを知ってもらいたいと思いながら、あいまいな説明を繰り返しました」

冒頭のコメント主が指摘するように、専門職などの中には、20万円以上の月収を得ている非正規公務員も存在する。しかし自治労連が2022年、会計年度任用職員約2万人に実施したアンケート調査によると、回答者の約6割が年収200万円以下だった。

労働者の待遇改善に取り組むNPO法人「ASU-NET」副代表の川西玲子氏は、公務員の正規・非正規間で対立が生まれるのは、待遇の格差が労働実態と関係なく「公務員試験に合格しているか、していないか」だけによるケースが多いことが一因だと指摘する。

前述した自治労連の調査では、回答者の5割が自分の仕事を「正職員の補助的業務」と回答した。しかし一方で「正職員とほぼ同じ」「正職員の指示を受けない専門業務」との回答も、計4割に上った。

特に教員や保育士などには、正規の職員とほぼ同じ仕事を担う人が多い。相談業務などでは非正規職員のほうが、専門資格や豊富な経験を持つ場合もある。にもかかわらず所得水準と雇用の安定度は、非正規と正規で段違いの差が出る。

「正規職員は『待遇が低いのが嫌なら、試験にパスすればいい』と思い、非正規職員は『同じ仕事をしているのに、1回試験にパスしただけでこれほど大きな差があるのはおかしい』と思う。両者に見えている風景は、まったく違っているのです」

川西氏によると、3年ごとに公募に応募し選考をくぐり抜けなければならない会計年度任用職員制度が2020年に導入されてから、非正規側の不公平感はさらに強まり、分断は顕著になっているという。

3年間で2度雇い止めに…人事評価も不明確

労働弁護団が2月に開いた非正規公務員に関するシンポジウムに、非正規の立場で10数年間、公立高校の教師を務める男性が登壇した。男性は正規の教員とほぼ同じ仕事をして部活の顧問も務め、100時間もの残業をこなす月もある。しかし産休教師の代替のため、休んでいた教師が復帰すると年度途中に失職する恐れがある。

「親が私の扶養に入りつつあり、失職すると生活に困るので、何とか別の職場に移れるよう校長に頼んでいます。毎年教員採用試験を受けていますが、長時間の残業がある中で勉強をするのも難しい」と語った。

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