ロマン溢れる「海底遺跡」知られざる研究の世界 転換期を迎えている「水中考古学」の最前線

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アボリジニの文化では、地形の位置関係を伝えるために、地図を作るのではなく歌が作られてきた。川や泉や目印となる地形について歌い、代々受け継いでいくのだ。

今回の歌の歌詞の半分は今でも地上にある地形について触れているが、残りの半分は例の泉を含め今日では見られない地形について触れているという。泉が海中に沈んだ時期を考えると、その歌は少なくとも1万年前から伝わってきたことになる。

ベンジャミンさんは、水中考古学は今まさしく転換期にあると話す。

「今まで、水中考古学は陸の考古学と同じように、植民地主義を美化してきてしまったところがあると思います。世界各地で植民地化を進める上で使われた船や奴隷船が、貴重な発見としてもてはやされてきたからです。これから水中考古学を担う新たな世代の研究者は、この分野を植民地主義の影響から解放しなければならないし、解放の仕方も慎重に検討する必要があります。

植民地主義の影響はヨーロッパや日本ではあまり感じられないことでしょうが、北アメリカやオーストラリアや南アフリカでは、未だに植民地主義の痕跡が社会に根強く見られます。このプロジェクトをはじめ今後の水中考古学は、社会的な負の遺産をなくしたり、軽減したりするものであるべきなのです」

今後さらに調査が進めば、オーストラリアに人類が辿り着いた頃のことがより深く理解できる可能性がある。そこで課題となるのが、広大な海から効率的に遺跡を探し当てることだ。同じくフリンダース大学で研究を進めるジョン・マカーシー博士は、遺跡にありがちな特徴を人工知能に学習させ、より効率的に見つけるための予測モデルを開発している。彼は急速に発展するデジタル考古学の専門家で、最先端のデジタル技術を水中調査に活用することを目指している。

発見するまでの時間を短縮

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過去10~15年間では、被写体をいろいろな位置や角度から撮影したものを統合して3Dモデルを立ち上げるフォトグラメトリの技術や、海底の3Dデータを解析する技術が発達してきた。おかげで時間も節約できるし、ダイビングをしている際にはわかりにくい鳥瞰図的な視点から分析が行えるようになった。

マカーシーさんの人工知能は、高解像度で海底のフォトグラメトリ調査を行った後にアルゴリズムを実行し、遺物が見つかる可能性が最も高い箇所を洗い出すという仕組みだ。ダイバーが潜ってもなかなか遺跡や遺物が見つからないことがあったが、この技術が発達すればさらに高い精度で事前に候補地を絞り込み、見つかるまでの時間がさらに短縮できる見込みだ。

五十嵐 杏南 サイエンスライター

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いからし あんな / Anna Ikarashi

1991 年愛知県生まれ。カナダのトロント大学で進化生態学・心理学を専攻(学士)。休学中に半年間在籍した沖縄科学技術大学院大学で執筆活動をはじめる。同大学卒業後、イギリスのインペリアルカレッジロンドンに進学。科学の専門家と非専門家をつなぐことを目的とした学問「サイエンスコミュニケーション」の修士号を取得。同カレッジ在学中に、NHK CosmomediaEurope やBBC でリサーチャーを務める。日本帰国後は京都大学の広報官を務め、2016年11 月からフリーに。2019 年9 月、一般社団法人知識流動システム研究所フェロー就任。

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