ロマン溢れる「海底遺跡」知られざる研究の世界 転換期を迎えている「水中考古学」の最前線
ロマンを掻き立てられる水中考古学だが、オーストラリアのフリンダース大学准教授ジョナサン・ベンジャミン博士は、アメリカ・カナダ・南アフリカ・オーストラリア・ニュージーランドなど、かつて西欧諸国の植民地として開発された国々にとっては、水中考古学は今、社会的な意識転換を後押しする可能性も秘めていると話す。
というのも、こうした地域では未だに植民地主義の傷跡が残り、先住民の権利や貧困が大きな社会問題なのだ。近年、北米やオーストラリアの学術界や一部企業では「ランド・アクノレッジメント(領土の承認)」といって、大きな学会やセミナーの開始時に「元々〇〇族の土地であったこの場所でこのイベントを行っていることを改めて認識しようと思います」といった趣旨のスピーチが行われることがある。
こうした取り組みから見られるように、一般社会の意識は高まっているのかもしれないが、実際に先住民の福祉につながるのかというと、疑問が残る。
一方で水没してしまった先住民の生活場所の調査を行うことは、先住民の歴史をより深く理解する手助けになったり、水中の開発プロジェクトから先住民の遺物を守ったりすることにつながる。先住民族の祖先が暮らした遺跡も、沈没船のように、山ほど水中に眠っているはずなのだ。
何千もの遺跡がまだ眠っている
「もちろん、沈没船が多く見つかる国で沈没船の調査をするのは素晴らしいことです。ですが水中考古学で調査できる遺跡の種類はもっとずっと多様です。氷河期の間、海面の高さはもっとずっと低かったので、世界中の大陸棚に人が住んでいたことは大いに考えられます。今、水深10メートルや20メートル、いや80メートルの海底になってしまった場所でも、何万年もの間、人々が生きて、働いて、死んでいったのです。多くの遺跡は海によって破壊されてしまったかもしれませんが、何千もの遺跡がまだ残っていると思うのです。
日本だって、中国との間に巨大な海がありますが、そこはかつて陸橋だったので、科学的、文化的な知識を得るとても大きなポテンシャルを感じます」とベンジャミンさんは言う。
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