ロマン溢れる「海底遺跡」知られざる研究の世界 転換期を迎えている「水中考古学」の最前線

拡大
縮小

ベンジャミンさんは、有史以前の水中遺跡を専門としている。北半球では、イギリスとデンマークの間にある北海からネアンデルタール人の遺跡や、フランスの水中洞窟から石器時代の壁画などが見つかっているが、南半球ではこうした遺跡が一つも見つかっていなかった。以前はヨーロッパを拠点としていたベンジャミンさんは、オーストラリアに来てからは水没したアボリジニの遺跡があるだろうと考えた。

直近の氷河期には、オーストラリアの陸地面積は今よりも30%大きかった。オーストラリアに初めて人間がやってきたのは6万5000年ほど前のこと。その時海面は今よりも100メートル低く、東南アジアから海路でやってきた人間たちがまず辿り着いたのは、今はもう沈んでしまっている大陸棚のどこかのはずだし、何世代にもわたりアボリジニの人が住んできた海岸地域は今頃海底に沈んでいるはず。そこで2017年に調査を開始した。

300点近くの石器を発見

調査団はターゲットを西オーストラリア州ダンピア諸島に絞り、2年かけて上空から当てたレーザーや船から放った音波のデータを使って海底の姿を画像化し、さらに候補地を絞っていった。そして2019年に実際にダイバーが潜り探索したところ、海底にある淡水泉付近で石器が見つかった。調査団は、8500年前のものだと推定している。他にも別の場所で7000年前頃のものと思われる石器が見つかり、プロジェクト全体で300点近くの石器を発見した。

このプロジェクトは、西オーストラリアのアボリジニの団体ムルジュガ・アボリジニ社と連携して行われた。アボリジニは、海のことを「シーカントリー(海の国)」と呼び、地形やそこで生きている生き物、生きてきた生き物、水中の季節の移り変わりなどを1つの複雑な存在として捉えている。シーカントリーでアボリジニの遺跡を研究することの許可をもらい、進捗があると報告し、遺物を見つけてサンプルを取り出した際も、大学で保管しても良いか、戻すべきかなどの相談をしつつ進めていくのだ。

連携する中でこんなエピソードがあった。プロジェクトのメンバーである西オーストラリア大学のミック・オリアリー博士がアボリジニの長老たちに研究成果を発表しに行った時のこと。淡水泉の場所を見せると、90代の長老が興奮し始めた。後々事情を聞いたところ、先祖代々伝わってきた歌の中でその地形が歌われているというのだ。

次ページ変わりつつある水中考古学の研究
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT