ロシアに対抗するのがアメリカです。アメリカはアラスカ州で北極海に面しており、北極評議会のメンバー国ですが、地理的条件に基づく影響力ではロシアにかないません。
少しでも北極海への関与を深めるべく、2019年にトランプ前大統領はデンマークに対してグリーンランド買収を持ちかけました。アメリカは1946年にもトルーマン大統領(当時)が同様の提案を行っています。こうした一連の動きからは、ロシアを念頭に、なんとか北極海の軍事的・経済的主導権を握りたいという思惑がみえます。
今後も、アメリカは、同盟国であり北極海に広大な領有圏を有するカナダとの連携を強め、ロシアの押さえ込みを図ろうとするでしょう。
「氷上のシルクロード」を国家戦略に
もう一カ国、「北極海」を虎視眈々と狙っている大国があります。中国です。地図を見ると一目瞭然ですが、中国は北極海に面していません。
しかし、中国は2021年に始まった第14次5カ年計画に「北極の実務協力に関与し、『氷上のシルクロード』を建設する」と明記しており、北極海に面するロシア・ヤマル地域でのLNGプロジェクトにも参画しています。
中国は、ヨーロッパまでのルートとして、南回り航路による「海のシルクロード」と、内陸の「陸のシルクロード」からなる「一帯一路」政策を進めていますが、ここに「氷上のシルクロード」を加えることを国家戦略に位置づけているわけです。
ルート上に位置する国が多い「海・陸」に比べ、ロシアとその他数カ国しか関与しない「氷上のシルクロード」は、中国にとって距離の短縮だけではない大きなメリットがあります。
とはいえ、北極海に面していない中国は、直接的な利害を持つ国々からすると「部外者」です。アメリカなどはかたくなに中国の関与を阻止するでしょう。そこで、中国が頼りにするのがロシアです。昨年のウクライナ侵攻以降、ロシアの経済的な中国依存は急速に高まっています。
この傾向が続けば、経済力が圧倒的に強い中国がロシアへの影響力をさらに高め、ロシアを通じて、「北極圏権益争奪戦」に参加するだけでなく、主導権すら握るかもしれません。中国とロシアの連携強化は、こうした視点からも見ていく必要があります。
実際に、「北極海航路」が通年通行でき、かつ、世界物流の大動脈となるまでには、相当の時間がかかると思いますが、すでに、沿岸国のみならず、中国までが参画した「主導権争い」が激しくなっています。
北極海をめぐる国際ニュースに耳を傾けるとともに、世界地図やGoogle Earthを眺めながら、各国の地理的条件やそれが変化すると何が起こるのか、を考えてみると、地政学に対する理解がより深まると思います。
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