中国がロシア抱き込む「氷上シルクロード」の野望 「北極海航路」をめぐりアメリカと熾烈な争奪戦

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この両運河に勝るとも劣らない、今注目の「地理的条件の変化」が「北極海航路」です。これまでは、自然環境が非常に厳しく、氷の面積が縮小する夏期のかなり限定された期間しか通行できませんでしたが、近年は地球温暖化の影響から、年々通行可能期間が長くなっており、将来的には通年通行が可能になるとみられています。

ヨーロッパまでの距離が劇的に短縮

東アジアからヨーロッパまで、「北極海航路」を使えば、マラッカ海峡からスエズ運河を通る「南回り航路」に比べ、約4割もの距離短縮が可能になるため、通年通行が可能になれば、輸送量は飛躍的に伸びるといわれています。

現在、北極圏に関する議論を行う国際会議体としては、1996年に北極圏国8カ国(カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、アメリカ)によって設立された「北極評議会」があります。

北極における持続可能な開発、環境保護といった共通の課題について協力等を促進することを目的としていますが、議論は緒についたばかりで、これらの課題に関する国際的なコンセンサスはまだ得られていません。

さらに2021年からロシアが輪番議長国でしたが、同国のウクライナ侵攻により、現在、同評議会の機能が完全に停止しており、関係国による「秩序なき主導権争い」の様相が強まりつつあります。

北極圏国8カ国の中で、最も影響力が強いのが、そのロシアです。ロシアは北極海に面する長大な海岸線を有しています。

国連の海洋法条約は、各国が海岸から200海里以内の水産資源と鉱物資源の権利を有していることを定めていますが、大陸棚が続いていれば、さらなる領有権の主張も認めており、ロシアは2001年、この規定に基づき北極海の「45%」の領有を主張しました。

この時は、データ不足などを理由に国連に却下されました。しかし、もしロシア沿岸から大陸棚が延々と続いていてロシアに広大な領有圏が認められるようなことになれば、北極圏航路の商業通行にも大きな影響力を及ぼす可能性があります。

現在、ロシアの北極海沿岸には、軍基地やLNG積み出し港などがあるだけですが、北極海航路の通年通行が可能となれば、資源開発をさらに進めるとともに、大規模港湾の整備などにも力を入れるものと思われます。こうなれば、ロシアの地政学上の位置づけも大きく変わります。

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