ヤマハ「音楽で街づくり」取り組んだ意外なその後 事業にはならないと言われてきたが…

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なぜ、福井県で音楽? と思う人もいるだろうが、福井県では福井県立音楽堂ハーモニーホールができて以来、四半世紀以上にわたり、県内の小学校5年生全員をホールに招待する事業を実施。鑑賞するだけでなく、リコーダーを持参して一緒に演奏したり、コロナ禍で声が出せない時には手拍子で参加するなど音楽に親しむ工夫をしてきた。

目指すは「県民1人ひとりがプレイヤー」

そうした背景などから2020年7月に策定された「福井県長期ビジョン」でも音楽、アートは大きく取り上げている。同ビジョンは直近の2020年から2024年の5年間で目指すべき姿と、実現すべきプロジェクトをいくつか挙げているのだが、その中に「まちと暮らしに音楽・アート」が挙げられている。

その1つが前述のヤマハと連携した音楽サークルの活動である。今のところ、17市町村のうちの5市町の参加だが、最終的には全市町村の参加が期待されている。目指すのは県民1人ひとりがプレイヤーになるという姿。

2021年からのサークル活動で高齢者がずっと憧れだった楽器を生まれて初めて手に取り、その1年後に舞台で堂々と演奏する姿があることを聞くと、誰もがプレイヤーになれることが、その地に住むことの満足度につながるのだと想像できる。

また、福井県では福井駅周辺に誰もが自由に芸術文化活動を発表できるまちなかステージを複数設置したり、福井中央公園で野外フェスを開催するなど音楽が聞こえる街づくりにも取り組んでいる。市内だけでなく、坂井市の芝政ワールドでも2023年5月に野外音楽フェスが予定されている。

よく地方創生では「賑わいを可視化する」という言葉を使うが、街中で聞こえる音楽や歌声も可視化の1つ。静まり返っているより思わずスィングしたくなるような街のほうが訪れたくなるというもの。住んでいる人が幸福を感じることと、訪れる人が楽しく感じることを両立させる要素の1つに音楽があったのである。

まちづくりに音楽を据えるという福井県との取り組みがメディアで取り上げられたことで問い合わせが増えた。

「ハードとソフトを一体に考えた施設を検討しているという行政からの問い合わせもありますが、それ以上にリゾート、ホテル、高齢者施設、介護、不動産その他さまざまな事業者からの問い合わせがあるのがこれまでと違うところでしょうか」(増井氏)

2023年3月には、世田谷区給田にある第一生命グラウンドを活用したまち『SETAGAYA Qs-GARDEN』で行われる音楽イベントがある。

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