この露骨な挑戦は、ロシアの変革を期待したG7諸国にとりウェイクアップコールとなった。前年に北アイルランドでG8ロック・アーン・サミットを主催したイギリス・キャメロン首相は2014年3月、サミットをロシアでは行わないと発表し、ロシアを除く7カ国による首脳会議がブリュッセルで6月に開催され、G7先進国首脳会議に戻った。
共同声明でG7諸国はロシアがウクライナの主権を継続的に侵害していると非難し、対ロ制裁に言及した。翌2015年6月の独エルマウ・サミットではG7を「価値と責任を共有する共同体」と表現し、違法なクリミア占領を改めて強く非難した。
ロシアによるクリミア併合は、G7が強調する価値の共有がグローバルには共有されない限界を露呈した。G7は価値共有を一層重視して原点回帰し、これを徹底するために不可欠な安全保障面で新たな一歩を踏み出すことになる。
ウクライナ支援で再浮上するG7
G7の地盤沈下を一層印象付けたのは、アメリカのトランプ前大統領によるロシア擁護だった。2018年6月のシャルルボワ・サミットでクリミアはロシア領であると持論を展開したトランプは、ロシアも含めたG8に戻るよう求め、イタリアも同調した。G7の結束が揺らぎ、グローバルなルールを提唱しリードする役割を果たせなくなってきた。
2014年以来のロシア非難はトーンダウンし、サミット終了時の首脳コミュニケは、ルールに基づく国際秩序、保護主義との闘い、公平な競争条件などをうたい、トランプも一旦は署名したが、カナダからの帰途で突然撤回をツイートし、G7の不一致と混乱を印象付けた。
コロナ禍やアメリカでの政権交代に加え、こうした地盤沈下を打開するきっかけとなったのが、ロシアによるウクライナ侵攻だった。2022年2月24日、議長国ドイツの呼びかけでオンラインのG7首脳会合が開かれ、ウクライナの主権と独立に対するロシアの攻撃は国連憲章などの重大な違反であり、ルールに基づく国際秩序に対する深刻な脅威と非難した。G7諸国はロシアの継戦能力を低下させるべく対ロ制裁で一致し、すぐに実施した(「ロシアへの経済制裁は一体どの程度効いているか」/地経学ブリーフィング/2022年9月19日配信)。
2022年6月の独エルマウ・サミットではウクライナ情勢のほか、世界経済、途上国での質の高いインフラ・投資、中国や北朝鮮を含むインド太平洋の安全保障、食料安全保障、ジェンダー平等、デジタル秩序などを話し合い、アウトリーチとしてG20の4カ国(インド、インドネシア、南アフリカ、アルゼンチン)とセネガルを招き、気候変動、エネルギー問題、保健について話し合った。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら