記憶力の低下を嘆く50代が知らない「意欲のワナ」 使わないとあっという間に衰える「前頭葉」

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このように、前頭葉をほかの部分と切り離したり、一部を切り取ったりすることで、意欲低下や感情のコントロールの障害が起こるケースは、その後も脳腫瘍などの術後のケースでも、数々報告された。こうして、結果的に前頭葉の機能が解明されてきたというわけだ。

いまでは、ピック病(現在は前頭側頭認知症の一部とされる)という前頭葉が強く萎縮する認知症では、やはり人格変化や情性欠如、感情や衝動のコントロール不良のほか、同じことを繰り返してしまう常同行為が問題になっている。

また、前頭葉に重症の脳腫瘍や脳出血があると、「保続」という症状が出ることも知られるようになってきている。

例えば本日は何月何日と聞かれて、正答できるなら記憶力や見当識にはほとんど問題がない。ところが保続があると、生年月日を聞かれても同じ日を答えてしまう。

317+785=1102と暗算で答えられたら、計算力を含め、知能は保たれていると考えていいが、次に、243+452という問いにも1102と答えてしまうのだ。

ここまで極端な保続はないにせよ、前頭葉の機能が落ちると、ある考えから別の考えにスイッチすることや、ある感情状態から別の感情状態にスイッチすることが困難になると考えられる。

こうして、意欲や感情のコントロール、考えの切り替え、そしておそらくは創造性などを前頭葉が司っていると考えられている。

男性ホルモン低下による意欲の低下を防ぐには?

40代から60代というのは、この前頭葉の萎縮と、男性ホルモンの分泌量の低下というダブルパンチで、意欲が低下する年代だ。さらに、ここに、前頭葉の機能低下で感情のコントロールができない、クリエーティビティーもなくなっている、となると、まさにやっかいな中高年、老人の典型的症状だ。

しかし、老化だからしかたない、とあきらめるのは早い。前頭葉の機能を保ち続けるための方法も、男性ホルモンの低下を補う方法もちゃんとある。

男性ホルモンについては、欧米では、HRT(ホルモン補充療法)を受けるのが一般的だ。飲み薬、注射、貼り薬など方法はいろいろ。ヨーロッパの多くの国では(日本もLOH症候群=加齢性腺機能低下症という診断名がつけば)保険適用である。

女性ホルモンのHRTのほうがより一般的(欧米では更年期の女性の3~5割が受けるとのことだ)だが(こちらも日本でもは、基本、更年期障害では保険適用である)、いずれも日本では、ほとんど普及していない。副作用が心配されるからだ。

たしかに、例えば女性ホルモンの場合、5年以上継続して服用すると、乳ガンになる確率が若干上がることが計測されている。といっても、受けなければ0.3%が、受けると0.4%になる程度だ。これをして、どちらを選ぶかは、まさに個人の選択だ。

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