記憶力の低下を嘆く50代が知らない「意欲のワナ」 使わないとあっという間に衰える「前頭葉」

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前頭葉の老化防止については、前述の東北大の川島隆太先生が任天堂のDS上で開発した「脳トレ」が有名だ。ファンクショナルMRIという画像診断によって、計算と音読が前頭葉の血流を増やすことがわかったことによる。ただし、血流が増えることによって、本当に前頭葉の老化防止になっているのかについて検証されているわけではない。

機能が衰えたところを回復させるには、その部分を使う、というのが基本である。例えば、足が衰えてきたら足を使う、読書力が衰えてきたら読書をする。逆に言うと、歳をとると使わないでいると、あっという間に機能は低下する。

そして、若いころと歳をとってからとで、もっとも差が出るのが、使わなかったときの衰え方、そして、回復に要する時間だ。例えば、スキーで骨折して1カ月間、寝たきりだったとしても、若い人なら、翌日には自然に歩ける。ところが、歳をとると、スキーどころか風邪を引いて1カ月寝ているだけで、歩けなくなってしまう人が少なくない。

同様に、前頭葉も、使わないでいると、あっという間に衰える。

敵はルーティンなこと、味方は想定外のこと!

では、前頭葉を使わない生活とは、どういう生活かというと、要するに、同じことの繰り返しだ。ルーティンなことばかりやっている生活。前例や経験則、ルールに従っているだけの生活。創造性を発揮することのない生活だ。

先に、定年後起業を考えている場合、50歳ぐらいからの準備が必要だが、その最大の準備は、資金でもなければ人脈でもない、前頭葉を活発にしておく、ということだといっても言いすぎではない。

会社での仕事がルーティンワークになってしまっている限り、仕事がそこそこできて、そこそこ出世していたとしても、いざ、起業しようと思ったときに、前頭葉が働かない。創造性もなければ、そもそも意欲が湧いてこない。

株式投資でもなんでもいいから、想定外のことが起こりそうなことを、4、50代のうちに、意識的に行っている必要があるだろう。

50代に限らず、40代でも、なんでも規則どおり、前例どおり、計画どおりに進めないと気がすまないタイプの人は、とくに気をつけたほうがよい。小説家などの芸術家(?)でも、若いころの成功体験に縛られて、同じことを繰り返そうとするとしたら、同様だ。知らないうちに、変化を恐れる保守的人間になってしまうし、創造性がどんどん衰えていく。

想定外のことが起こることと言えば、その筆頭は恋愛かもしれない。

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性ホルモンの分泌も増やすから、生理的な老化防止には、恋愛こそがいちばんのクスリ、老化予防には最もいいのだが、社会的には難しいし、実際に、夫や妻の浮気から離婚騒動となって、メンタルヘルスという点では逆効果、ということになるかもしれない。

でも、自分自身が異性にときめく気持ちを封印したり、配偶者がほかの異性と夕食に行ったり飲みに行ったりする程度のことで目くじらを立てたり、ましてや、他人のそういう行動を、不倫だとか不謹慎だなどといって非難しているようでは、前頭葉は老化する一方だ。

いずれにしろ、現在の結婚制度、社会通念、倫理規範は、これほどの超高齢社会を想定して生まれてきたものではなかった。そろそろ変わっていくころかもしれない。

子育てという夫婦の共同作業が終わった後も30年は残る人生をともに生きるパートナーとして、いまの配偶者がふさわしいのかを再確認する、そして、そうでない場合は、パートナー・チェンジすることが当たり前の時代が来ないとは限らない。

和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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