記憶力の低下を嘆く50代が知らない「意欲のワナ」 使わないとあっという間に衰える「前頭葉」

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一般に、50代半ばあたりから意欲が低下しがちになる。これは、前頭葉の老化と、男性ホルモンの分泌量の低下がその主な要因だ。これらは、個人差はあるものの、40代後半から始まる。

とくに、男性ホルモンの低下は、ダイレクトに意欲に影響する。

代表的な男性ホルモンであるテストステロンは、もともと、意欲や気力、攻撃性、好奇心と密接な関係を持つホルモンだからだ。

(画像:『五〇歳からの勉強法』)

一方、前頭葉には、次の2つの働きがあるとされる。

1つは、感情のコントロール。大脳辺縁系で生まれた怒りや不安などを、前頭葉が処理してくれる。もう1つの働きは、意欲と創造性だ。

これに対し、計算や図形は頭頂葉、言語理解は側頭葉が担っているとされる。

早い話が、WAISの知能テストのうち、言語性IQとされるものは側頭葉の機能を測るものであり、動作性IQとされるものは、頭頂葉の機能を測っているわけだ。それらの働きは、60代になってもさほど低下しない。だから、知能は低下しないのである。

前頭葉の機能とは?

結果的に前頭葉の機能が明らかになったのは、いまからさかのぼること80年ぐらい前、エガス・モニスというポルトガルの医者がロボトミーという手術を発明したことによる。

当時、治療法がなかった重度の統合失調症患者に対して、前頭葉を脳のそのほかの部分と切り離す手術を行ったところ、それにより主要な症状であった凶暴性がなくなったのだ。しかし、それ以上に驚かれたのは、前頭葉の一部を切り取っても知能検査の点数は1点も落ちなかったことだった。

この時点で、前頭葉は通常の知能を司るものではないので、一部を切り取っても問題ないと考えられるようになった。そして、知能を落とさず凶暴性だけをコントロールできる、このロボトミー手術の発明によってモニスはノーベル医学・生理学賞を受賞した。

ところがその後、その手術を受けた人間が、ひどい意欲低下に陥ったり、感情のコントロールが悪くなったりしたことから、手術をした医師たちが恨まれ、殺される事件が何件か起こった。モニス自身も銃撃され、脊髄損傷で車いす生活を余儀なくされる。

ダニエル・ゴールマンの『EQ─こころの知能指数』の冒頭で紹介されている、事故で前頭葉の部分を損なった弁護士のケースもそうだ。かれの場合も、損傷した前頭葉の一部分を切除する手術を受け、手術は大成功、知能テストの点数も同じく1点も落ちなかった。ところが、感情のコントロールができない、意欲が続かないということで、結局、社会的には廃人同様となってしまったというのだ。

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