そのほうが聞く相手にとっても面白いだろうな、ということもあるが、それ以上に、細かな数字よりも意味がわかっていることが重要な、想起しやすい記憶だからだ。覚える数字も最低限にしている。
「パーカーはペトリュスのほうが好きで、何回も100点をつけているけど、ロマネのほうは85年の一度だけ100点をつけている。ペトリュスは100点の年より99点の75年が飲みごろということもあって、ずっとおいしいと思うけど」
これなら、いくつも数字を覚えているように見えて、85年と75年の2つのビンテージしか覚えなくてすむ。99点というのは100点のおまけのようなものだからだ。
つまり、さほど復習しなくても覚えられるようにするには、意味を考えることだ。付帯的な知識もいっしょに覚えておくといい。これをエピソード記憶という。単純な名前や言葉の記憶は苦手でも、エピソードやそれにまつわる知識なら覚えていられる。
そして、とことん納得するまで理解することだ。
丸暗記はやはり若い人に分があるとしても、中高年は、理解力で勝負できる。理解したことは、記憶というより自分自身の思想の一環となって、いつでも引き出せる状態にあるはずだ。
アウトプットで、「想起力」を磨く
ここで、記憶力についてもう少しお話ししておくと、記憶力には、記銘力と保持力と想起力の3つの段階があり、記銘は情報を脳にインプットする力、保持は、記憶を長い間貯蔵する力、想起は、蓄えた記憶を引き出しアウトプットする力である。受験勉強のふだんの勉強では記銘力と保持力、テスト本番は想起力がおもに使われる。
そして、年齢とともに低下するのは、実は想起力のほうだ。だから、頭の中に概念はあるのだが、その具体的な名前が出てこなかったりするわけだ。
これにも復習が重要なのだが、それには、実際にアウトプットしながら、記憶に定着させていく方法が中高年にはもっともお勧めである。
ちょっと高級なホテルに行くと、チェックインの際にクレジットカードを出した瞬間から、名前で呼ばれるようになる。
「それでは、和田さま、本日はようこそおいでいただきました。和田さまの必要なことがありましたら、なんなりとお申しつけください。和田さまは明日は日経新聞でよろしかったでしょうか」といった具合だ。
そして、次に行ったときには、「和田さま、お待ちしておりました」となる。これなど、とにかく口に出すことで記憶しているのだ。
お礼のメールでは苗字だけでなくフルネームで、必ず、会社名、肩書きを添えて書くようにすること。これもまた、実際に使いながら、記憶していくテクニックである。また、新しい人と出会ったら、覚えたばかりのこと、数字などをSNSなどの記事にしたり、知人とのおしゃべり、講演などでできるだけ使うようにする。
使っているうちに、再び、記憶が定着する。使うこと自体が復習になるのだ。
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