「組織のため変わった男」が失敗を経て学んだこと 鳥谷敬氏「他人の期待に応える必要はない」の真意

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(写真:平野司)

このとき金本監督は、「鳥谷が変わらなければ、このチームは変わらない」と宣言した。そして、「おまえ自身が変われ!」とはっきりと口にした。

「組織のため」「他人のため」は本当に正解か?

かつて、現役選手同士であった頃は、金本さんからの言葉は「先輩からのアドバイス」として受け取ることができた。挑戦してみて、「やっぱり合わないな」と思えば、それで済んだ。しかし立場が変わり、「監督と選手」という関係性となった以上、金本さんからの言葉は「監督からの指示」に変わる。

監督命令は絶対である。わたしは、新たな挑戦を試みることとした。

3~5キロの増量によって体型が変われば、バッティングのバランスも変わってしまう。また、急激な体重増によって、ひざを壊してしまう可能性もある。金本監督は「体重を増やした結果、動きづらくなったとしたら元に戻せばいい」といってくれたので、わたしはバランスも崩さずにパワーも出るベストな体重を模索した。打率をキープしながら飛距離もアップできるポイントを探したのだ。

同時にこのとき、打撃スタイルの変化も求められた。

それまでは走者がいるときでも、特別なケースを除いては比較的自由に打たせてもらっていた。しかし、金本監督の理想とするスタイルは「最低でも進塁打を放って、走者をひとつでも先の塁に進める野球」だった。

当然、塁上に走者がいるときには、「一、二塁間に引っ張るように」という指示が出された。例えば、入団当時の岡田監督には同様のケースでも、「おまえはレフトに流し打つのが得意なのだから、特に右方向を意識せずに自由に打って構わない」といわれていたので、打球方向を強く意識することなく打席に立つことができた。しかし、新監督のもとではそのスタイルを貫くわけにはいかない。わたしは、金本監督の求めるスタイルに近づくべく意識改革、打撃スタイル改良に挑戦した。

ところが――。

結論からいえば、この挑戦は失敗に終わった。

キャンプのときから右打ちを意識して練習に取り組んできた。そこには「金本監督の期待に応えたい」という思いがあったからだ。

しかし、この年は「六番・ショート」で開幕戦を迎えることになった。キャンプ時には「一番か二番、あるいは三番で起用するから右打ちを意識しろ」といわれていたものの、ペナントレースが始まるとチーム事情により上位ではなく下位を打つことになったのである。上位打線であれば右打ちも有効であるけれど、六番打者となればその後は下位打線に続くため、自分のバッティングで得点をあげることが求められる。

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