「組織のため変わった男」が失敗を経て学んだこと 鳥谷敬氏「他人の期待に応える必要はない」の真意

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一般の人からしたら、大した違いはないように思えるかもしれない。しかし、ほかの選手はどうかはわからないが、わたしの場合は打順によって打撃スタイルを変えることには、かなり大きな戸惑いがあった。

それまでは、アウトコースのボールは球に逆らわずにレフト方向に打っていた。しかし、キャンプ、オープン戦期間、アウトコースのボールを一、二塁間、つまり右方向に打つ練習を続けてきた。ようやく手応えをつかみ始めていたときに「やっぱり、引っ張らないで左方向に打つように」といわれても、一度身につけてしまった習慣を瞬時にリセットすることは、わたしにはできなかった。微調整で済む問題ではなく、一から打撃フォームを修正しなければならないほどの大問題だったのだ。

結局、2016年シーズンはわずか106安打、打率は.236というプロ入り以来最低の成績で幕を閉じることになった。

自分を殺してまで他人の期待には応えなくていい

このときわたしは、「ある結論」を得る。

他人の期待には応えなくていい
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自分は、「誰かの期待に応えようとすると、自分の長所を見失ってしまう欠点がある」ということを悟ったのだ。であるならば、「自分の長所」を消してしまってまで、「他者の期待」に応える必要はないのではないか――。そう考えたのだ。

くれぐれも誤解しないでほしいのは、これは金本監督に対する批判ではなく、あくまでも自分には向いていなかったというだけのことだ。

わたしがもっと器用な選手で、監督の意向に沿って自らの打撃スタイルを臨機応変に変えることができるタイプであれば、チームにとっても、わたし個人にとってもハッピーな結果だったし、わたし自身も「新たなスタイルを身につけて、さらに打者としての可能性が広がった」と満足できたはずだ。

しかし、自分にはそのスタイルは向いていなかった。ならば、監督の意向に背くことになったとしても自分のスタイルを貫いたほうがいい。その結果、出場機会を失ってしまったとしても、それはそれで仕方がない。そう腹をくくればいい。

一連の出来事を通じて、こうした結論に至ったのだ。

――自分を殺してまで、他人の期待に応えない。

これは野球だけでなく、生きるうえでも大切なことだとわたしは思っている。

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