なぜ習政権は敵を増やすような非合理的な行動を取るのか。
習政権からみると欧米諸国が中国の民主化を企てていると懸念するからである。もう1つ重要な点として、習政権が「強国復権」を目指すうえで既存の国際社会のルールに従おうとしないことである。これは、紅衛兵世代の彼らが毛沢東から継承した最重要のDNAにルールを無視すること(「造反有理」など)があるためだ。だからこそ、国内では安易に憲法を改正し、対外的には多国籍企業の知財権を侵害するという事案が発生する。
ここで、習政権執行部の文脈に則って考えてみることも無意味ではない。紅衛兵世代の彼らは権力を崇拝し、弱肉強食の論理を信じているように見える。つまり習政権は中国の国力がすでに十分に強くなったことから、既存の国際ルールを無視しても大きな問題にはならないと考えているようだ。
ネオ・チャイナリスクで中国自身も困難な状況に
振り返れば、習政権が発足する以前の中国には、政治と社会の不安定性や中国企業がビジネスを受注しても納期を守らないといった古典的なチャイナリスクが存在していた。それに対して、習政権期には「強国復権」を目指して世界主要国と激しく対立するネオ・チャイナリスクが台頭している。ネオ・チャイナリスクは国際社会を攪乱するだけでなく、中国自身をも困難な状況に陥らせている。
国際社会で台湾有事のリスクが心配されているが、広くとらえれば、それもネオ・チャイナリスクの一部といえる。すなわち毛沢東のDNAを継承した紅衛兵世代の指導者たちの統治能力の低さとそれに因む政治、社会と経済の混乱がこれから加速していく可能性である。社会統制の強化と経済繁栄が両立できないのは明々白々である。
これまで中国の経済発展にもっとも協力してきたアメリカとその同盟国はますます中国を警戒するようになり、中国との距離がいっそう離れていく。中国経済が発展しなくなれば、習政権はますます窮地に陥ってしまう悪循環へと向かう可能性が高い。
3月5日から年に一度の全国人民代表大会が開かれている。今回は習政権3期目の国務院人事が正式に決まる見込みだが、ほとんどが習主席のイエスマンによって構成されるとみられている。行き過ぎた権力集中が重い代償を払うことになるのではと、心配するのは筆者だけではあるまい。
(柯隆/東京財団政策研究所 主席研究員)
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