──市場監視「原論」もきちんと盛り込んでいます。
いろいろな人にそれぞれのメッセージ性があると思う。金融危機を経験した人にとっては記憶を共有するという部分もあるだろう。最も読んでほしい現役市場関係者には、何のためにこの仕事、つまり市場監視をしているのか、よくご理解いただけるのではないか。
もちろん、インサイダー取引にしても相場操縦にしても、摘発されるのは法律で禁止されているからだ。では、なぜ禁止されているのか。普通の投資家の証券市場への信頼を守らなければいけない。今や元本保証の預金を元手に銀行が資金を貸すという形ではリスクテイクが困難になっている。証券市場を通じたおカネの流れを太くしていかないと、望まれる経済構造、産業構造に変わっていけない。多くの人に幅広く証券市場に参加してもらう。そのために不公平に扱われない場だと信頼してもらわなければいけない。そうしようとしている。基本メッセージはそこにある。
──連載を本にしただけにしては記述内容の流れがいいですね。
要約すれば、まず市場の信頼を守る、不公正とは何か、市場の論点は、そして監視実務とは、と流れは進む。あらためて目次を見返して、われながら確かに計画的に書いたようにも思えた。その時々に書くべきと考えたことを素直に記述してドッキングさせたにすぎないのだが。
タイミングよく儲けている取引にはアラートが出る
──テレビ番組に金融検査官が登場して好評を得る時代です。
面白い時代になった。前身の金融監督庁ができた頃には大蔵省から分離して心細い感じだったのが、「半沢直樹」のようなドラマが作られて、あれほどの取り上げられ方をされる役所になったのかと感慨深い。あの存在感。むしろテレビドラマを見て腹を立てた関係者は一人としていなかったのではないか。
──それにしても、この本にあるようにインサイダー取引はそんなにバレるものなのですか。
現役の行政官が書いたものであることを意識していたのかもしれないが、いくらバレると言ってもやる人は後を絶たない。何でこいつはこんなにタイミングよく儲けているのだという疑問は、システム的に必ず湧くようになっている。そのタイミングよく儲けている人と発行体との関係がわかれば、ほとんど仕事は終わったようなもの。ここでも個々のドラマは面白いが、この本で追究していってもマニアックになりすぎるから、ほどほどにしてある。
──インサイダー取引の疑いで起訴された経済産業省の木村雅昭元審議官(起訴休職)は上告して、異議を申し立てていますね。
あの人物だけは、同じ役人として「何なんだよ、こいつは」と思ったので、少し感情を込めて書いてしまっているかもしれない。
──文中に「異色官僚」がけっこう登場します。世代が近い人ですね。
木村さんとか古賀茂明さん(元経産省)、西山英彦さん(同)、あるいは高橋洋一さん(元財務省)とか、一つ二つの年齢の違い。でも、たまたまだ。私の場合はまだ内部の人間なので、抑制要因が働く。
──他官庁の動きも個人的に「監視」しているのですか。
「役人」として私自身がなっていないところだ。ずけずけ書いたりしないのが役人の礼儀なのだが、大事な組織としての役割を果たしてもらいたいので、警察庁や法務省、経産省、日本銀行にしても、もっといい仕事ができるのではと思ったら遠慮しない。ただ、人や組織についてはどうでもいいことを書かない。批判しているとすれば、批判するに値するから批判しているのだ。
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