出口治明氏が解説「小説を読むときの2つのコツ」 「地底旅行」を題材に古典の楽しみ方を語る
話をもとに戻しましょう。アイスランドで、3人は火口から地底に入っていきます。休火山であっても、地底に行けば熱いかもしれません。そこで地球の中心が熱いかどうかはわからない、という説をリーデンブロック教授は唱えます。科学的には間違っているにもかかわらず、自然科学の知識を生かして書かれているから一理あるように思えるんです。だから引き込まれます。地底の中には岩や石しかありません。佐渡の金山や石見の銀山に行ったことがある人はご存知と思いますが、どこも石だらけですよね。
でも、それでは物語として退屈ですから、天才ヴェルヌは、地底に入っていくと古い時代に戻っていくというタイムトラベルのような構造にしました。3人が足を進めると、昔の地層が出てくる。デボン紀、シルル紀とどんどん時代をさかのぼっていきます。三葉虫やシーラカンスなど動物たちの化石も見つかりますから、進化の過程もわかる。もっと先に進むと、生きた古代魚まで出てきます。
映画『ジュラシック・パーク』は遺伝子の再生によって恐竜が登場するという設定でしたが、この『地底旅行』は過去に向かうことで古代魚が出てくるので、『バック・トゥー・ザ・フューチャー』と『ジュラシック・パーク』をかけ合わせたような冒険譚です。『ジュラシック・パーク』も『地底旅行』から着想を得ているかもしれませんね。ほかにも途中で飲み水がなくなったり、アクセルが2人とはぐれてしまったりと、ワクワクドキドキの要素もふんだんに盛り込んで、物語を膨らませたり転がしたりしています。これが起承転結の承と転の部分です。
そしていよいよ結の部分、フィナーレです。深い地底まで入った3人はどうやって地上に帰るのか。もと来た道を戻るのでは、同じことの繰り返しになります。となると……。どこにどうやって出てきたのかは、ぜひ読んで確かめてください。とにかくヴェルヌは最後まで楽しませてくれます。
この本の構成は、なかなか面白そうでしょう? この本が見事なのは、いま読んでもそんなに古く感じないことです。ヴェルヌの想像力がいかに素晴らしいかがよくわかります。『地底旅行』は、今も世界中で読まれています。古典がなぜ面白いかというと、そもそも面白いものしか残っていないから。この本を読むとそれがよくわかるはずです。
いくつものテーマが作品世界を豊かに
次にテーマを考えましょう。たくさんの読者を獲得したSFは、何を訴えたいのかがわかりにくい作品も多いのですが、逆に言うと、面白い物語をつくったらそれでええんや、とも言えますね。
この作品の場合は、仲間の大事さや旅の面白さ、人間の探究心や冒険心の大切さを伝えたかったということができますし、若者が試練を受けて立派になって帰ってくるという成長物語の要素も含まれています。
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