出口治明氏が解説「小説を読むときの2つのコツ」 「地底旅行」を題材に古典の楽しみ方を語る

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出口治明氏(撮影:尾形文繁)
ライフネット生命の創業者で、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長である出口治明氏の新著『ぼくは古典を読み続ける 珠玉の5冊を堪能する』より一部抜粋。出口氏が取り上げたうちの一冊『地底旅行』をもとに古典の楽しみ方をお届けします。

『地底旅行』はSF作品です。著者のヴェルヌ(1828〜1905年)は、『タイム・マシン』『宇宙戦争』などを残したH・G・ウェルズ(1866〜1946)とともにこのジャンルの草分け的存在として知られています。

SFは、サイエンティフィック・フィクション、サイエンス・フィクションの略です。どんな物語も細部を丁寧に描写することで奥行きが生まれたり、読者にリアリティを感じさせたりするものですが、SF作品では、サイエンス、つまり自然科学の理論を上手に使って描写します。

たとえばこの本では、こういうシーンがあります。3人で地底にもぐっていくとき、登場人物のひとりで、地質学に詳しいアクセルが「地球の内部の気温は30メートル下に行くたびに一度あがります」と言う。そして、地底にもぐる前と、そのときの気温を比べて、自分たちが海面から何メートルの地点にいるかを計算するのです。

ところが鉱物学者のリーデンブロック教授は、「前提が間違っている」と反論します。こうしたやりとりがものすごくリアルで引き込まれていくんです。SF作品の完成度を高める大きな要素は、自然科学の理論をどう取り込むかにありますが、その点でヴェルヌは、気象学や地質学、生物学など自然科学の幅広い知識を使って小説を書いている。地底旅行の様子がとても豊かに描写されているのです。

出口流、小説を読む2つのコツ

小説を読むときには、2つのポイントがあります。

ひとつは、どういう登場人物でどういう構成、起承転結になっているかということ。もうひとつは、何をテーマにしているのか、何が言いたいのかということ。この2つの点から物語を見ていくとわかりやすいでしょう。

ひとつめを見ていきます。この物語は、登場人物が少ないのが特徴です。旅行中は、リーデンブロック教授と、教授の甥で助手のアクセル、それからガイドのハンスの3人しかいません。それでも単調にならないのは、3人の性格がそれぞれ個性的だからです。リーデンブロック教授は、この探検隊のリーダーですが、なかなか奇抜な発想をする人です。それに対して甥のアクセルは理論派で、ときには参謀のような役割を果たします。ガイドのハンスは、寡黙な働き者。この3人の関係性が物語をうまく方向づけています。

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