出口治明氏が解説「小説を読むときの2つのコツ」 「地底旅行」を題材に古典の楽しみ方を語る

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『地底旅行』が出版当時、新しかったのは、ヨーロッパの物語でありながら、ほとんど神様という存在が出てこないところです。

それだけ自然科学が発達し、科学に多くの人が興味をもっていた時代背景だったのでしょう。

なぜ欧米ではSFが人気なのか

ヨーロッパは、自然科学の知見をもとにした本を書く研究者や、それを積極的に刊行する出版社が日本よりも多いように感じます。SFは世界中で人気ですが、恐らく日本より欧米のほうがSFの出版点数が多いのではないでしょうか。

日本は、ノーベル賞を受賞するような研究者も多く、研究のレベルはヨーロッパと比べて引けを取らないのに、一般書を書こうとする研究者が少ないのはなぜでしょうか。理由のひとつは、一般書を書くよりも英語で論文を書いたほうが学会での評価が高くなることにあるでしょう。

日本では、歴史書も研究者ではなく作家が中心になって書かれてきた。だから司馬遼太郎さんの「司馬史観」などというものができたんです。物語をつくる作家と歴史の研究者は立場が違うのですが、司馬さんが書いた小説を「歴史」として受け止める人も多くいますね。

そういえば、ぼくが歴史の話をすると、「自分が習ったことと違います」という人がいます。中学生や高校生の頃に習ったことをそのまま記憶しておられて、歴史という学問は進化がないと思っている人も実に多いんです。

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遺伝子の研究はどんどん進んでいて、古い理論が覆ることがあると理解できるのに、なぜか歴史は、新たな発見があるとは思わない。もちろん、徳川家康の生まれた年はこれからも変わらないのでしょう。でも、あらゆる学問には新しい発見があり、その発見によって進化する。

たとえば、これまで仏像は、ギリシア彫刻の影響を受けてガンダーラでつくられるようになったとされてきましたが、近年になって同じくらいの時期にヒンドゥー教の信仰が盛んだったマトゥラーでもつくられていたことがわかりました。歴史という学問もほかの学問と同じように、新たな発見を繰り返しながら進化しているんです。

欧米では伝統的に、一般の人に最新の知見を知ってもらうことが研究者の大事な役割だと考えられているので、自然科学であれ歴史などの人文科学であれ、学問の最先端の知識をわかりやすく解説した本がたくさん出版されています。SFの裾野が広いのには、そういう背景があるのかもしれません。

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長

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でぐち はるあき / Haruaki Deguchi

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月より現職。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史Ⅰ』(ちくま新書)、『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)、『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(角川oneテーマ)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『ゼロから学ぶ「日本史」講義Ⅰ』(文藝春秋)など著書多数。

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