大阪市内で複数のタクシー会社、観光バス事業を手がける「日本城タクシー」の坂本篤紀代表(58)は、観光客の戻りを複雑な胸中で見ている。
「完全にコロナ前まで戻った、とはいえませんが8割程度までは回復しています。大きな違いは、中国人観光客が消えて、タイやベトナム人が主流になったことでしょう。特に多いのがベトナム人観光客です。ウチのハイヤーも、2カ月先までずっとベトナム系の観光の方がチャーターしている状況です。
そもそも乗務員不足で、予約を回すのに一苦労。もしここに中国系の観光客が重なれば、大阪のタクシーはパンクしてしまう。日本人客が乗りたい時に乗れない、というような未来も現実的になっていますね」
タクシー会社の視点でいうなら外国人増による乗車率の向上や予約が大半という状況は、経営的にはありがたいはずだ。だが、そんな状況が“歓迎”か、というと必ずしもそうではないという。坂本代表が続ける。
「遅かれ早かれ中国人観光客は戻ってきます。そうなった場合、大阪のタクシー業界としてはもはや対応は難しいでしょう。つまり、観光客がこれ以上増えても、ニーズは取り込めないということです。今は1台あたりの売り上げは伸びていますが、それは需要に対して供給が追いついていないという事情から。実は売り上げは落ちているんです。
業界では、今の状況に安堵している経営者もいますが、稼働台数が減っているという事実から目を背けてはいけません。全国的にタクシーの人手不足を解消する、という動きはありますが、ドライバーになる人を増やす、ということは正直難しい。もはや、何とか人数を保ちつつビジネスモデルを工夫し、今の規模感でいかに利益を出すか、という段階に来ていると思いますね」
値上げでも乗り控えは起きず
東京都内に目を向けても状況は大きく変わらない。東京では去年11月に実に15年ぶりに運賃改定が行われている。初乗り料金は420円から500円となり、14%の値上げ幅となった。にもかかわらず、都内の複数タクシー会社によれば乗り控えは起きておらず、1台あたりの収益は伸び続けている。
その一因には、観光客増加の影響もある。75名の外国籍ドライバーが在籍するなど、観光事業にいち早く注力してきたのが日の丸交通だ。観光タクシー部門では、既にGW頃までの予約が埋まってきているほど好調だという。もちろんこれは、去年までには見られなかった状況でもある。同社の広報担当者は、現在の外国人客のタクシー利用状況をこう明かす。
「外国人利用者の方も、アプリでの配車が占める割合が増えています。コロナ前と同等まではいきませんが、近い水準まで戻ってきている。特にUberでの配車依頼が増えており、利用者の数も非常に多い。
Uberアプリ流入のうち、実に7割が外国人の方です。多い乗務員さんだと、約半数がアプリ利用客ということもあり、外国人の乗車割合がかなり多くなります。場所も主要駅やターミナルとなるエリアだけではなく、どこからでも依頼が入ってくるイメージです。
ただUberはアプリ操作が少しむずかしいこともあり、導入を嫌う高齢の乗務員の方も多かったんです。それでもニーズの高さは明らかで、会社でUberの操作研修を行うなどして、乗務員の方にも利用を推奨するなどの対策をしています」
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