日本はいつまで「真の民主主義」を維持できるか 中国やロシア並み「専制主義国」が増殖している

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「真の民主主義国」でも徐々に表現の自由や報道の自由が抑圧され、権力に対する縛りが弱まっていったことが要因です。「専制主義国」の増加とあわせ、「民主主義の後退」が世界の潮流になりつつあります。

日本は①の「真の民主主義国」です。ただし、国内の状況を詳細に見ていくと、「民主主義の後退」と言える事象が数多く目につきます。まず、投票率の低さです。国政選挙で見ると、近年はかろうじて50%を維持しているような状況です。公正で透明性の高い選挙は「民主主義国」の絶対条件ですが、私たちは自ら、この基盤をないがしろにしてしまっています。

メディアの権力監視機能の低下も問題です。最新の「報道の自由度ランキング」で、日本は世界71位です。「真の民主主義国」としては、この評価をもっと重く受け止めるべきです。国会議員など政治家の世襲の多さや、縁故主義の蔓延も要注意です。

日本人の意識は専制主義国に近づいている?

デモやストライキも暴力的なものは論外ですが、国民の声を政治や世の中に伝える手段として選択肢から排除すべきではありません。重要な点は、報道や表現等の「実質的な」自由が確保され、かつ権力に対する縛りが機能しているかどうかです。その点、今の日本はかなり危うい状況です。

筆者は、④「独裁国」の中国やミャンマー、③「選挙はあるが実質専制国」に分類されているシンガポールなどの「専制主義国」で生活した経験があります。当然のことかもしれませんが、それらの国の国民からは、総じて、「政府への強い依存意識」を感じました。政府のやることに物申さず、粛々と指示に従うといった姿勢です。

個人的な感覚ですが、今の日本の国民の意識は、欧米民主主義国よりも、こうした専制主義国の国民に近いような気もします。

新型コロナが蔓延した時期、コロナ対策などについて、「権力者に全てを任せる方が効率がよいのでは」といった意見を頻繁に耳にしました。社会全体で「効率性」を過度に重視する傾向が強まれば強まる程、そういった欲求は高まります。

ただ、国の持続的繁栄には、なにより「レジリエンス」が重要であり、その点で、専制主義よりも民主主義の方が優位にあることは言うまでもありません。

ロシアのウクライナ侵攻や、中国の台湾侵攻リスクの高まり等もあり、専制主義国の横暴さが強調されています。こうした国々の行いについて、批判すべき点は批判すべきですが、同時に、自国を振り返り、こうした専制主義国に向き合う民主主義国として充分機能しているのかどうかも問い続ける必要があります。

「真の民主主義国」であり続けるためにも、そのことを常に念頭において私たちは行動すべきだと思います。

武居 秀典 DIC インテリジェンス室長

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たけい・ひでのり / Takei Hidenori

一橋大学卒業。三菱商事で主に調査・分析業務に従事。調査部長や北京現地法人社長を歴任。ロンドン、NY、北京などに計14年間駐在。2023年大手化学メーカーDICに移籍。

 

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