米国の対中半導体輸出規制強化がもたらした衝撃 中国は侮れないが、最先端半導体は「勝負あったか」

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アメリカのジョー・バイデン大統領
バイデン大統領が打ち出した対中半導体輸出規制強化策は歴史に残るだろう(写真:Nic Antaya/Bloomberg)

大きかった一連の「対中半導体・ハイテク規制」の影響

もう1つ重要な原因としてアメリカの対中半導体・ハイテク規制があった。

急速な軍事強国化に伴い、「いかに中国の軍事強国化を抑制するか」はワシントンのコンセンサスになっていた。2018年、トランプ大統領は北朝鮮やイランなど制裁国家への輸出や「軍民融合」疑惑を理由にZTE、ファーウェイ、SMICなど大手通信機や半導体メーカーへの厳格な輸出制裁を行った。それも計画を大きく狂わせた。

核心はグラフィック・プロセシング・ユニットの禁輸

このたび、アメリカが目を付けたのは急成長する中国のAI産業だ。もしこの分野でアメリカが中国に負けることがあれば、中国はあらゆる分野で効率を飛躍させ、アメリカを凌駕するに違いないからだ。2022年10月に発表されたアメリカ国家安全保障戦略では、人民解放軍が「宇宙・対宇宙・サイバー・電子・情報の能力を急速に進歩させ統合」させているとし、そのコア技術としてAIを中心とするコンピューティング技術を挙げている。

実際、中国のAI産業の成長はすさまじかった。中国のAI事情を熟知する台湾出身の李開復は、著書『AI世界秩序』(2018年)において、「現在中国の自律型AIの実力は圧倒的にアメリカに遅れているが、(GPUの)画像認識などの最新技術が急速に広まれば、5年後には自律走行車の米中格差はなくなり、自律型ドローンなどハード型用途では中国が優位に立つ」と予測、「ビッグデータの優位性」や「優秀なAIエンジニアの存在」を考えると「今後AIの恩恵を最も受けるのは、中国だろう」と述べている。

しかし、GPUの急速の広まりを予想した李だったが、「入手不可」は想定外だった。GPUは「画像認識から自走運転に至るあらゆるものの中核」になる最先端チップだ。現在はテレビゲーム機用からスタートしたアメリカのエヌビディアの寡占状態だ(生産はTSMC)。

2月1日、習総書記は「挙国体制で科学技術の自立に努め、外国による『チョークポイント攻め(卡脖子)』を解決する」と述べたが、GPUは正にこの「チョークポイント」にあたり、その製造技術の禁輸により、アメリカは「中国のAI先進軍事国化阻止」を見込む。

『CHIP WAR』の著者クリス・ミラーは、この規制により中国のキャッチアップは「少なくとも5年、10年でも困難」と予測する。これは中国の「強国の夢」の実現にとって大きな痛手だ。

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