19世紀前半のナポレオン戦争が、19世紀の戦争に与えた影響は大きい。それが、ヨーロッパ全土を巻き込んだ壮絶な戦争であったからだ。その中から、近代の戦争論の基本的教科書ともなる作品が生まれる。それが、プロイセンの軍人・軍事学者であるクラウゼヴィッツの『戦争論』(1832~34年)と、今のスイス出身の軍人・軍事学者であるジョミニの『戦争概論』(1838年)である。
クラウゼヴィッツは、戦争を「政治的行為であるばかりか、政治の道具であり、彼我両国の政治的交渉であり、政治におけると異なる手段を用いてこの政治的行為を遂行する行為である」(『戦争論』篠田英雄訳、岩波文庫、上巻、58ページ)と述べる。しかし、問題は政治的行為を動かすのが、いったい何かである。
ジョミニは政治的行為よりも、その銃後にある貯蔵と補給という経済的視点に焦点をあてている。いわゆるロジスティック(兵站)だ。広くこの兵站を解釈するならば、それはその国家の生産力を含めた総体的国力である。
近代の戦争は経済力を背景にしている
それは、近代の戦争が経済力を背景にしていることを意味する。戦争を始める前に、どれほどの経済力をもっているかが、勝負の分かれ目ということになる。
だからこそ、国家はその国の経済力のみならず、自らに利する友好国をしっかりと見極め、それらの総合力で勝利を収めることになる。NATOそして、BRICSが、戦争以外の分野でしっかりと結びつき、経済制裁と国際外交を展開するのは、まさにこうした戦争行為の背後にある経済行為の問題だといえる。
資本主義が登場してなぜこれほど戦争が増えたのかといえば、まさに政治が経済と深く関係し、その経済が資本による利潤の拡大と密接につながっているからだ。戦争と経済について最も明確に語ったのは、ドイツの経済学者ヴェルナー・ゾンバルトであり、『戦争と資本主義』(1913年)である。
ゾンバルトは、資本主義の発展は戦争がもたらしたものだと述べている。資本主義の市場拡大、すなわち利潤の拡大が、戦争を引き起こし、その戦争のための軍事技術の発展がさらに資本主義の産業革命をもたらしたのだという。
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