「メールのccから外された」50代男性が働かない訳 「働かないおじさん」というレッテル貼りに苦悩

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当時の私のメモによれば、「100台ほどの古い机とパソコンが並ぶがらんとした室内に、さまざまな部署から正社員113人が集められ、退職強要とも受けとめられる“業務”を課せられている」といった、企業の卑劣なやり方が、その記事には記されていました。

会社側は、「新たな技能を身に付けてもらい、新しい担当に再配置するための部署。会社として退職を強要するものではない」と説明。しかし、集められた社員の中には「希望退職するか異動を受け入れるか」の二者択一で配属されたケースもあった。

似たような部署はソニーグループ、NECグループ、朝日生命保険などにもあり、自分自身が社外での自分の出向先を見つけることを「業務内容」としている会社もあったと報じられました。

この報道は新年早々話題となり、連日メディアに取り上げられるなど社会問題に発展しました。

あの頃の社会にはまだ、企業の卑劣なやり方を戒める空気が確実にあった。2000年以降、希望退職という「新手のリストラ」に企業が手をつけたことや、2008年に発生したリーマンショックの影響で派遣切りも多発。大きな騒動となった「年越し派遣村」の余韻も残っていたため、「会社は社員をなんだと思っているんだ!」という怒りが、社会全体で共有されたのです。

「働かないおじさん」への風当たりが強くなった

しかし、しだいに会社への怒りは消え、「追い出し部屋に行かされるほうにも問題がある」などと追い出し部屋を必要悪とする言説が増え、ついには「働かないおじさん」という辛辣かつ失礼な言葉が飛び交うまでになったのはご承知のとおりです。

「仕事が残っていても平気で、『もう時間なんで』って帰るんですよ!」

「『そんなにお金もらってないしね』って開き直って、仕事を拒否するのもムカつきます!」

「『こんなこと、なんで俺がやるんだ』とか、不満ばかり。もう、辞めてほしい!」

「ずっと隣で居眠りされるのも、いやになりますよ!」

「うちのシニアはコミュニケーション拒否!」

これまでインタビューした人たちからは、繰り返しシニア社員批判を聞かされました。むろん、私とて、周りを困らせる幼稚なおじさんたちがいることを否定するつもりはありません。 しかし、特定の集団に対するネガティブなイメージが、長い時間をかけてじわじわと社会に根付くと、そこに差別や偏見が生まれ、結果的に集団隔離につながっていきます。

若い人の中にも勝手な振る舞いをする人はいますし、女性たちの中にも不満ばかり口にする人もいます。なのに、なぜか「50代の男性会社員」ばかりがたたかれる、十把一絡げに「働かないおじさん」とレッテル貼りされていくのです。

やる気満々だったはずの白木さんは、50代への厳しい“まなざし”による「ステレオタイプ脅威(Stereotype Threat)」で心を痛めつけられていました。

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