人気ジョッキーが解説、緊張を「遠ざける」工夫 冷静にレースを迎えるために必ず行うこと

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たとえば、2021年に初めて参戦したアメリカでのブリーダーズカップ。前日に2歳牡馬・騙馬限定のBCジュベナイルが組まれていて、祐一さんがジャスパーグレイトで参戦しました。

僕は祐一さんのレースを近くで見ていたのですが、見ているだけだからこそ、ものすごく心拍数が上がってくるのを感じて、緊張が込み上げてきたのです。

なぜなら、初めて行ったデルマー競馬場で、「明日初めてブリーダーズカップに乗る」と意識したから。

事前の準備で、すべてが“初めて”ではなくなる

やはり“初めて”は曲者です。

それがわかっていたので、翌日の古馬のブリーダーズカップデーに控え、その日は祐一さんについて回って、「乗った気ですべてを経験する」という体験をしました。

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こうやってパドックに入っていく。

こうやってパドックから馬場に入る。

パレードをして返し馬に行く。

競馬をして、終わったらこうやって帰ってくる──。

それを全部間近で見て、さも自分がレースに乗ったかのごとく味わうという体験です。そうすると、僕の中に経験したこととしてインプットされるので、翌日のすべてが“初めて”ではなくなります。それによって緊張せずに済む……というカラクリです。

レースは生き物ですから、何が起こるかわかりませんが、先述したように、レースではもう緊張しない自信がありましたからね。

レース前、レース後の動線を把握して、1つでも不安要素を取り払っておく。当日、冷静にいつも通りの自分でレースを迎えるために、この作業はとても効果的だと僕は思います。

ちなみに、心拍数が上がる=緊張する場面は、実は毎週のようにあります。それは、予想紙を見ながら、レースの展開を考えているときです。この馬がああなってこうなって……と考えていると、自然と心拍数が上がってくるのです。

おそらく、気持ちが完全にレースモードに入って、レースに乗っている感覚でシミュレーションをしているからでしょう。たった1人での作業ですが、あの瞬間は本当に緊張感があります。

シミュレーションの内容も、「こうなったら嫌だな」というパターンが中心であり、上手くいくケースはほとんど考えません。というか、理想的な展開を考えても意味がないと思っています。

「こうなったら嫌だな」というパターンを心拍数が上がるほどリアルに頭の中で再現することで、あらかじめ嫌な思いを経験しておくのです。

そうすると、実際に嫌なパターンになったときに、「どうしよう」ではなく「やっぱり」となり、戸惑うことなく対応できることにつながります。

川田 将雅 騎手

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かわだ ゆうが / Yuuga Kawada

1985年生まれ、2004年にデビュー。08年に皐月賞をキャプテントゥーレで勝利してGIジョッキーの仲間入り。12年にはジェンティルドンナでオークスを制し、名実ともにトップジョッキーに。13、14、19、20、21年に最高勝率騎手、16年に特別模範騎手賞を受賞。同年にマカヒキで日本ダービーを制覇。22年は最多勝利・最高勝率・最多賞金獲得の三冠を実現し、史上4人目となる「騎手大賞」を獲得。9年ぶりの「JRA生え抜きリーディングジョッキー」となった。

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