人気ジョッキーが解説、緊張を「遠ざける」工夫 冷静にレースを迎えるために必ず行うこと

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その年の10月には、ハープスターとともに凱旋門賞へ。

このときはさすがに、自分で自分の不安を煽るまでもなく、緊張やプレッシャーを感じました。「プレッシャーに押しつぶされそうになるとは、こういうことか……」と実感したものです。これが僕にとって二度目の緊張です。

ジョッキールームでパドックの時間を待つ間にそれはピークを迎え、いても立ってもいられなくなった僕は、ともに遠征していた横山典弘さん(ゴールドシップ)と福永祐一さん(ジャスタウェイ)に、あえて「緊張しています」と思いを吐露。緊張で押しつぶされそうだからこそ、先輩の言葉が欲しかったのです。

そんな僕に対し、ノリさんがひと言、「当たり前だろ、凱旋門賞だぞ」。その言葉を聞いて、ずいぶんと心が軽くなったものです。

その後、パドックに向かうときにジョッキールームでモニターを見ると、なんとその時点での現地のオッズでは、ハープスターが1番人気。

「俺は今から、凱旋門賞の1番人気に乗るのか」

そう思ったら、緊張なんてどこ吹く風。今度は気持ちよくなってきました(笑)。

その後はもう気持ちよさしかなく、返し馬でもレースでも、緊張が頭をもたげることは一切ありませんでした。

世界最高峰の凱旋門賞というレースで“1番人気”に乗りながら(最終オッズは4番人気)、一切緊張していない自分を知ったとき、この先、責任の重さからくる緊張感はあっても、個人的な緊張というか、レースにおいて緊張することはもうないなと思ったものです。

不安を未然に取り除くシミュレーション法

それから8年以上が経ち、多くの有力馬を任せていただいてきましたが、2014年の桜花賞と凱旋門賞で感じたような緊張は、実際に一度も経験していません。

凱旋門賞で感じた身の置き場がないような緊張を振り返ったとき、その源は“初めての経験”からくる不安にほかならないと今ではわかります。僕にとって、初めて日本馬で行く海外騎乗があの凱旋門賞であり、競馬にまつわるすべての事柄が初めて経験するものでした。

人間、経験していないことに対しては、絶対に不安が生まれます。そして、「どうしたらいいのだろう?」という不安が緊張を生むのです。

だから、事前にその不安を解消しておけば、緊張を遠ざけることができます。大事なときに「どうしたらいいのだろう?」とならないように事前に準備をしておく、というのが僕のやり方です。

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