人気ジョッキーが解説、緊張を「遠ざける」工夫 冷静にレースを迎えるために必ず行うこと
要するに、適しているのか、適していないのか──。
その差は確実に存在すると思います。そういう面においては、生まれ持ってのものなのか、育ち方なのかわかりませんが、僕の気質はプラスに働いているという自負があります。
実際、レース中に緊張している自分を感じたことは、デビュー以来、一度もありません。
レース前の段階で、緊張している自分を自覚したのも二度のみです。
一度目は、絶対に負けられない立場で臨んだハープスターの桜花賞(二度目の話は後述します)。
緊張している自分を感じたのは、クラシックレース特有の空気感が漂うポケット(競馬場のコーナーの奥まった場所)で、誰も言葉を発しない静寂の中、ドクンドクンという自分の心臓音のみが耳の奥で鳴っていたときです。
横隔膜がせり上がってくるような感覚にも陥りましたが、ポケットから出て、ゲート裏に向かっていく最中に、不思議とその緊張感がスッとなくなりました。
となれば、レースでは当たり前のことを当たり前にやるだけです。スタートが切られてからは緊張することもなく、無事に勝つことができてホッとしたのを覚えています。
トゥザのダービーで上手く乗れなかった原因
桜花賞の翌週には、トゥザワールドとともに挑んだ皐月賞がありました。2着に負けてしまったのですが、レース中はもちろん、レース前も桜花賞のような緊張はまったく感じませんでした。
あれだけ騎乗停止になりたくない、ケガをしたくないと、本来の自分の競馬が無意識のうちに変わってしまうほど思い詰めた馬なのに、です。
ハープスターのオークス(優駿牝馬)も、皐月賞と同様、まったく緊張することなく2着。
皐月賞2着、オークス2着ときて、次はいよいよ日本ダービーです。
ポケットにいるときとはいえ、デビュー以来初めて緊張している自分を感じた桜花賞。そこで勝利した成功体験から、「これは緊張したほうがいいのかな……」という思いに至ったのです。
ダービー当日、レースまでの時間を過ごす中、普通なら考えなくてもいいようなことを考えて不安を煽り、あえて緊張するように自分で自分を持っていきました。
その結果は……めちゃくちゃ下手くそに乗りました。レースでは緊張しなかったのですが、レース前に余計なことを考えすぎた結果、その考えが邪魔をして、中途半端な競馬になってしまったのです。
トゥザワールドにも関係者にもファンのみなさんにも申し訳ないことをしてしまったと思いますが、競馬ではいかに「いつも通り」が大事か、このダービーを通して僕は大きな学びを得ました。
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