「親が認知症になる前に"円滑相続"」リアルな費用 認知症になってから対策するのといくら違う?

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こんな可哀そうな事例がありました(日経新聞2020年12月25日付)。

親の資産総額は1億円超(うち預金は1000万円弱)と多かったので(しかし、都市部では、今どき、決して金持ちといえる財産ではないですね)、要介護3に認定されて特養に入居できたとしても、財産凍結(つまり使えないのに)、預金や実家が“ある”というので、月額料金が上がってしまったのです。

結局、特養の軽減措置が受けられず、月額費用は20万円近くになりました。

これは、先の表にある月額料金15万円より高いのです。「こんなに払うのであれば、サービス内容の良い介護付有料老人ホームへ入居させたかった」と悔やむ相談者の記事は身につまされました。

介護費用を親の預金から引き出そうとしたら…

介護費用や老人ホームの入居費はどこから出したらよいのでしょうか?

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親の年金で不足するならば、当然、親の預金からです。老人ホームの入居一時金は、先の表で見たように平均で1000万円以上でした。こんな大金はATMでは引き出せず、当然、銀行の窓口で引き出します。すると預金口座の名前は親のままですから、「ご本人でないと出せません」と言われ、「親が認知症なので代わりに来ました」と言えばその場で、財産凍結されてしまいます。

平成のはじめのころまでは、親族が引き出すことができました。ところが、最近ではコンプライアンスが厳しくなって、引き出せないのです。

なぜなら、遺産分割のときのもめ事に銀行が巻き込まれるからです。他の相続人が「お前が勝手に使って、お父さんの預金が少なくなったんだ!」と、家族意識の変化に伴い、相続財産に対する権利意識の目覚めから争いが多くなりました。

そして、「銀行はけしからん! 父さんの預金を、本人以外がおろすのを見逃した!」と裁判に訴えてくる人が多いので、銀行は引き出してくれなくなったのです。

暗証番号を知っていればキャッシュカードで少額ならば出せるでしょう。しかし入居一時金は大金で、窓口扱いになってしまいます。「ならば分割引き出し」で。ところが銀行も50万円の引き出しが連日なされると、ATMが自動停止です。

しかし、親の介護のためなのに使えないことへの不満は高まりました。そこで政府指導で、介護目的が明らかであれば、少額引出しが可能となりました。それでも高額な老人ホームの入居では困難です。「代理人カード」でも1日の引き出しは50万円程度が限度です。

たとえ遺言書に、配偶者や子どもに「相続させる」と書いてあってもダメ。そもそも、遺言書というものは、亡くなってからしか有効にならないのです。だから、相続対策としての遺言書では、介護のための対策にならないのです。

牧口 晴一 税理士・行政書士

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まきぐち せいいち / Seiichi Makiguchi

1953年生まれ。税理士・行政書士・法務大臣認証事業承継ADR調停補佐人。慶應義塾大学法学部卒、名古屋大学大学院 法学研究科(会社法)修了。税理士試験5科目合格。1986年開業。2015年『税務弘報』9月号で「トップランナースペシャリスト9」に選出。「相続博士・事業承継博士」として活動する。また、NHK文化センターで相続・会計・事業承継の講座を10年余り担当している。主な著書に『非公開株式譲渡の法務・税務(第7版)』『事業承継に活かす納税猶予・免除の実務(第3版)』『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第4版)』(以上、中央経済社)、『図解&イラスト 中小企業の事業承継(第14版)』(清文社)等多数。

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