「がん治療も妊娠もあきらめない」先端医療を取材 がん患者3人が出産、まだ研究段階で課題も
女性は持って生まれた原始卵胞の数によるところも大きい。原始卵胞は歳をとるごとに減少していく。その原始卵胞にダメージをもたらすのが抗がん剤だが、多い人はダメージを受けても残るが、少ない人は残せない。結果的に妊娠ができない、という状況になる。
「こうした事実は、意外とがん患者さんに知られていません。つらいがん治療を終えたら、まったく知らない間に妊娠・出産が不可能になっていたなんてことになっては取り返しがつきません。だからこそ、がん治療前からの適切なタイミングでの正確な情報提供、年齢や治療法ごとの妊孕性温存療法が大切なのです」(鈴木さん)
妊孕性温存療法はさまざま
妊孕性温存療法には、主に卵子と精子を受精させた受精卵を用いた「胚(受精卵)凍結」、受精前の卵子を用いた「未受精卵子凍結」、卵巣組織を用いた「卵巣組織凍結」、精子を用いた「精子凍結(精巣内精子を含む)」がある。今回は女性を対象にした妊孕性温存療法について考える。
「配偶者がいる場合は、安全性とエビデンスが確立されている胚凍結が第一の選択肢になります。一方、配偶者がいない場合は、未受精卵子凍結が第一の選択肢です」(鈴木さん)
採卵は経腟超音波でモニタリングしながら、腟から細い針を挿入し卵子を吸引する方法が一般的だ。卵巣組織凍結は新しい妊孕性温存療法で、がん治療前に腹腔鏡手術で摘出して短冊状に切って凍結した卵巣組織を、がん治療後に融解して移植する。初潮前のがん患者が主な対象となる。
「白血病や肉腫のようにすぐに治療を開始しないと命に関わる患者さんの場合も、採卵には最低でも2週間はかかるので、卵巣組織凍結を選択する場合もあります。ただ、卵巣組織凍結は臨床研究の段階ですから、その点をしっかりご説明しています」(鈴木さん)
卵巣組織凍結に限らず、どの妊孕性温存療法でも、確実に妊娠・出産に結びつくとは限らない。では、どのくらいの可能性があるのだろうか。
「18〜34歳の女性が20個の未受精卵子を保存した場合に、生児獲得が予想されるのは約40%。妊孕性温存療法を行っても、必ずしも妊娠・出産できるとは限らないことはお伝えする必要があります」(鈴木さん)
昨年11月、聖マリアンナ医科大学病院で妊孕性温存療法を受けた30〜40代の3人の女性が妊娠・出産していたことがわかり、大きなニュースとなった。日本国内では、過去に若年で月経がなくなる「早発卵巣不全」の女性が卵巣凍結により出産した例があるが、がん経験者では初めてのこと。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら