認知症を前向きに捉え、老人を解放しよう いわゆる「問題行動」は、理解不能ではない

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今は乱暴に見えても、認知症になる以前は「人に迷惑をかけない」生き方を頑なに守ってきたという人は多い。

人に頼らざるを得ないという状況は自分のポリシーに反しているため、差しのべられた手をはねのけてしまうのだ。

よく「ボケっとしてる」なんて見られることの多い認知症だが、心の中は非常に繊細なのである。

佐藤病院の佐藤忠宏理事長も、このように語っている。

「そうなんですよねぇ。地道に黙々と生きてきた人たちが、こう(重度認知症に)なると、個性がうわぁーっと出てくるんですよねえ」

行動の背景を知ることで印象が変わる

本書には著者が手探りで考え、心理を分析していった過程が細かくつづられている。

認知症の人が持つ心の機敏さには驚かされるだろう。

しかしその複雑さを知ることで、理解できないように思われた行動にも背景があることがわかり、ネガティブな印象はほぐれていく。

少なくとも、得体の知れない存在として遠ざけてしまうことはなくなるはずだ。

認知症の進行とともに、罹患者の内面から、常識や世間体や煩雑な人間関係といった余分なものが削ぎ落とされ、いわば「地肌」があらわになる。それは、私たちから見れば、ときに目をそむけたくなったりみるに忍びなかったりするものであろうが、その人が秘めていた個性の核心であるにちがいない。

 

ジイちゃん、バアちゃんたちと著者が打ち解けていく様子は、読んでいて心あたたまると共に、参考にもしたいものだ。著者のような愛のあるまなざしをもっと多くの人が持てたなら、認知症の人がより生きやすい世の中になり、従来の後ろ向きなイメージからも「解放」されるのだろう。 

峰尾 健一 HONZ

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みねお けんいち / Kenichi Mineo

HONZ学生メンバー。1993年、横浜生まれ。横浜市立大学在学中。5歳から高校卒業までを秋田県で過ごし、大学入学と同時に横浜へカムバック。基本的に乱読派のため、好きなジャンルを絞りきれず困っている。最近は日本文化、音楽などに興味あり。

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