日本では共働きの家庭で、女性が育児に費やす時間は週平均2時間32分なのに対して、男性は40分にすぎません[*13]。これらのデータを見ると、母親は父親よりも育児に圧倒的に多くの時間を費やしていることがわかります。
さらには、この20年間に共働き率が上がり続けたことを考えると、時間的なゆとりができたから育児に費やす時間が増えたのではなく、仕事も育児も忙しい親の状況と、特に異性愛者カップルの場合、母親の圧倒的な負担がうかがえます。
親の心の健康と子どもはつながっている
この多忙な状況は、親のストレスにつながっています。そんななか、子どもの話をじっくり聴く心の余裕を持つのは簡単なことではありません。
さらには長引く新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が原因で保育園や学校が休園、休校になるなど、多くの親が慢性的にストレスを感じています[*1]。こういった外的ストレスがある時ほど、親自身の不安、うつ傾向、対人関係のイライラが増えるほか、子どもにきつく当たりがちです[*2]。
親の心の健康と子どもの成長には、濃密な関係があります。たとえば、乳幼児期に育児ストレスを感じていた親を持つ子どもほど、3歳になった時に、友達とのいざこざ、社会性や感情コントロール力の欠如など、問題を抱える確率が2倍高くなるほか[*6]、長期的な親の不安が子ども自身の不安症やうつ傾向に関連していることもわかっています[*3]。
自分自身の心のコップが空っぽの状態の時に、周りに愛情を注ぐのは難しいことです。子どものことを優先して自分のニーズが満たされない時ほど、自然とイライラや不満もつのるものです。
子どもの心の健康が親の心の健康から始まることを考えると、親が自分自身をいたわることを含め、子育てに必要なサポートやリソースを得られるようにすることは、社会の重要な課題と言えるでしょう。
子どもの発達にとって、人間との関わりは必要不可欠です。たとえば、生後9カ月の赤ちゃんが、対面により数時間の中国語の指導を受けたところ、特定の発音を認識することができたのに対し、まったく同じ指導を録音で受けた別の赤ちゃんはできなかったという研究結果があります。これは、社会的相互作用が言語習得に大きな役割を果たしていることを示しています[*8]。
また、「3000万語の格差」[*7](※)でも知られているように、幼児に大人が積極的に話しかけることで、その後の学校生活や人生の成功に長期的な影響を与える可能性が示唆されています。
最近の研究では、幼児の言語発達には、子どもが耳にする言葉の数よりも、対話をする回数の方が重要であると考えられています[*11]。つまり、子どもに話しかけることも重要ですが、それ以上に、積極的に質問を投げかけたり話を聴くことで、子ども自身が発言する機会を多く持つことが、子どもの言語中枢を活性化させる鍵だということです。
このような研究結果からもわかる通り、幼少期の学習にとって親子間の対話は不可欠なのです。
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