現在のように書店や図書館があるわけでもないのに、平安時代の女性はどうやって物語を読んでいたのだろう? 評判の物語をどうやって手に入れていたのだろう?と不思議に思う人も多いだろう。しかし『更級日記』を読むと、それは徹頭徹尾、口コミによるものだったのだとよくわかる。
「あの物語、面白かったわよ」とうわさが広まる。そして「じゃあ貸して!」と写本が手渡される。貴族の女性から、親戚の女性へ。平安時代の貴族の女性コミュニティは主に手紙でつながっていたらしい。その手紙を通して、「今度この本をあげるわ」と贈ってくれる。そうやって平安時代は物語が伝わっていたんだな、と『更級日記』を読むとよくわかる。
例えば現代もSNSを通して面白い小説や漫画がシェアされることは多いが、同じような感覚だろう。1000年以上前、平安時代もみんな同じようなことをしていたんだな……と笑ってしまう。
さて、人生ではじめて物語を読んだ菅原孝標女。彼女の感想は「えっ、もっとほかの物語も読んでみたいんですけど!」だった。
しかしそのチャンスはなかなか訪れない。やはり当時、紙は高級品。ツテがないと物語は手に入らなかった。都会に来たばかりの彼女に、ツテなんてあるわけがない。
そんななかで彼女は、慕っていた継母と実父が離婚してしまったり、大好きだった乳母が亡くなったりと、落ち込むことが続いてしまう。ずっと落ち込んでいる彼女を慰めようと、実母が持ってきてくれたのは……やはり彼女の大好きな「物語」だった。いいお母さんである。
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