破れた血管の太さにもよるが、出血は多めで、色が鮮やかなのが特徴。便意でトイレに行ったら、いきなり血が出てきて驚く人が多い。一方、出血以外にほとんど症状がないのも、この病気の特徴だ。
「大量出血があると出血性ショック(体から大量の血液が失われることで血圧低下や呼吸困難、意識障害などが生じる状態)に陥ることもあります。このため、肛門から挿入した内視鏡で出血部位を探し、医療用クリップではさんで止血する処置をします」
痔から大腸がんが見つかる例も
次は日本人の3人に1人が罹患しているともいわれる「痔」だ。痔による下血は痔の中でも内痔核(いぼ痔)によるものがほとんどだ。しかし、なぜ痔による下血が緊急性を要するのか。
いぼ痔は血管(静脈)がこぶ状に膨らんだ静脈瘤(りゅう)だ。肛門には静脈のかたまりである静脈叢(そう)がある。排便時のいきみでこの静脈叢が圧迫されると血流が滞り、静脈瘤となる。排便時にこの静脈瘤が破れると、下血としてかなりの出血が起こるという。
さらに出血が繰り返されると体の血液が不足し、貧血が進んでいく。「下血を放置した結果、重症の貧血になって、ふらふらになって外来にかけこんでくる患者さんもいます」と白倉さん。痔とわかっていても、受診して止血をする必要があるのはこのためだ。
「下血がある状態で運転はやめましょう。意識が消失して大事故につながる危険があります」
また、「下血が止まったから、受診はキャンセル」と考えるのは危険だ。
「痔主だからといって、下血の原因がすべて痔からとは限りません。痔の出血だと思って放置していたら、大腸がんだった、という患者さんを少なからず経験しています」
次は「虚血性大腸炎」だ。腸壁の血流が一時的に滞ることで、周囲の組織が壊死(えし)を起こす病気で、“腸の心筋梗塞”といわれることもある。
「人間の体は血流が途絶えると、ものすごく強い痛みを発します。心筋梗塞や狭心症で冠動脈が詰まったときに、『焼け火箸が突き刺さるような痛みが起こる』と表現されますが、同じことが虚血性大腸炎でも起こっていると考えてください」
虚血性大腸炎では激しい腹痛に続き、虚血によって破壊された血管から、出血が起こる。
60歳以上に多く、動脈硬化や高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や、動脈硬化を引き起こす病気を持つ人に起こりやすいが、極度の便秘や脱水も原因になり、若い人に発症することもある。実際、2001年にはマラソン選手(当時)の高橋尚子さんがこの病気を発症している。
「虚血性大腸炎では入院してもらい、絶食と安静を1~2週間続けることで回復します。出血が軽度の場合は自宅療養で、刺激物を控え、おかゆや素うどん、素そうめんなど、腸に負担をかけない食べ物を摂りながら、過ごしていただきます」
最後は多くの読者が気になっているであろう、「大腸がんと下血」の関係について。
白倉さんによれば、「命にかかわる病気として、もちろん、最重要なのがこの大腸がん。ただし、これまで紹介してきたような止血の必要な大量出血になることは少ない。それだけに、見逃されやすい下血と言えます」という。
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