メディア側にも理由があることは想像できる。団体側からの抗議を恐れているとか、「被害を語る側の言い分だけに立脚して団体を名指しすることに抵抗がある」といった「公正さ」への意識もありそうだ。
統一教会とほかの宗教団体との扱いの違いについて、ある大手メディアの関係者は統一教会が安倍氏銃撃事件との関連で取り沙汰されるようになったのに対して、ほかの宗教団体は「事件がらみ」ではない点を挙げた。
顔出しで個別の対面取材にも応じる統一教会2世の小川さゆりさん(仮名)のような、メディアにとって記事にしやすい象徴的存在が、エホバ2世にはいない、という事情も考えられる。しかし11月7日に立憲民主党のヒアリングに出席したエホバ3世である夏野なな(仮名)さんは、マスク着用とは言え顔出しだった。これについても、ウェブ配信記事は別として、紙面ベースでは共同通信の配信記事と「しんぶん赤旗」以外は、エホバの固有名詞はなかった。
証言者の顔出しとは関係なく、ものみの塔ではメディアが慎重になっていることがわかる。
団体側の抗議と訴訟の歴史
ここ30年間、メディアは統一教会に限らず、カルト全般を記事にせず、空白の期間が続いていた。おそらくは「宗教団体に批判的な報道をすると面倒くさいことになる」という忌避感だ。順を追って、その歴史を見てみよう。
1989年、『サンデー毎日』が「オウム真理教の狂気」と題する特集記事を掲載した。この年だけで、7回にわたる記事を掲載し、教団初期での批判報道をリードした。これに対して、オウム側は毎日新聞社を相手取って訴訟を起こした。
同じ1989年、TBSがオウムを取り上げる番組を制作した。オウムを批判していた坂本堤弁護士のインタビューを収録したが、教団幹部がTBSに押しかけ、インタビュー映像を見せろと要求。TBS側は映像を見せてしまったうえに、放映しなかった。
1995年の地下鉄サリン事件後、この件が発覚し、オウムが坂本弁護士一家殺害事件に踏み切ったきっかけの1つになったと指摘された。「TBSビデオ問題」だ。この件でTBSは社会から強く批判され、社長が辞任した。
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