マルクスが150年前に予言した、資本主義崩壊 資本主義崩壊後とポスト資本主義のゆくえ

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というのも、資本主義的所有ではすでに、「社会的な生産経営」が事実上成り立っていますので、これを「社会的な所有」に変えるのは根本的な変化ではないからです。

それに引きかえ、資本主義以前の小規模生産者たちの分散的な私的所有から資本主義の私的所有への転換は、多数の民衆の収奪(=個人的所有の喪失)が必要なので、厳しく困難な過程だった、とされています。

ところが、マルクスのこの表現は誤解され、そのために逆に、困難とは思われなかったポスト資本主義への転換が、困難を極めることになったのではないでしょうか。というのも、マルクスがここで語ったことは、今でもほとんど理解されていないからです。

ポスト資本主義は個人的所有の再生をめざす?

では、ポスト資本主義で何が成立するのか、確認しておきましょう。

まず、資本主義から引き継ぐべき成果は、「協業と、土地および生産手段の共同占有」です。これは、「社会的な生産経営」とも表現されています。それに対して、再建すべきは「個人的所有」とされます。

資本主義で成り立つ「共同占有」は、英語では「possession in common」と訳されますので、コモンはすでに資本主義で始まっている、とも言えます。この資本主義の「コモン」にもとづいて、失われた「個人的所有」を再建するのが、ポスト資本主義になります。このとき注目すべきは、国家所有については、一言も述べられていないことです。

したがって、マルクスの『資本論』にもとづけば、コミュニズムというのは、国有化とはまったく関わりがありません。むしろ、資本主義で生み出された「土地と生産手段の共同占有」というコモンにもとづいて、個人的所有を取り戻すことがめざされています。

しかし、このイメージは、通常語られるコミュニズムとは大きく外れているのではないでしょうか。コミュニズムとは何なのか、あらためて問い直す必要がありそうです。

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岡本 裕一朗 玉川大学 名誉教授

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おかもと・ゆういちろう / Yuichiro Okamoto

1954年福岡県生まれ。九州大学大学院文学研究科哲学・倫理学専攻修了。博士(文学)。九州大学助手、玉川大学文学部教授を経て、2019年より現職。西洋の近現代哲学を専門とするが興味関心は幅広く、哲学とテクノロジーの領域横断的な研究をしている。著書『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)は、21世紀に至る現代の哲学者の思考をまとめあげベストセラーとなった。ほかの著書に『フランス現代思想史』(中公新書)、『12歳からの現代思想』(ちくま新書)、『モノ・サピエンス』(光文社新書)、『ヘーゲルと現代思想の臨界』(ナカニシヤ出版)など多数。

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