ウクライナへの「戦車供与」に折れたドイツの苦悩 根強い反戦世論、欧州安保の「盟主」の座は遠い

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ショルツ氏の政党であるドイツ社会民主党(SPD)は、歴史的にドイツの反戦運動の担い手の1つである。党内左派は平和主義に加え、親ロシアの傾向も強く、依然として影響力がある。

中心人物がミュッツェニヒ連邦議会(下院)議員団長で、欧州配備の米戦術核撤去や兵器輸出、国防費増額に反対してきた。ピストリウス国防相もかつて、2014年のクリミア併合に対する対ロシア制裁の見直しについて言及したことがある。

親ロシア傾向の党内左派に配慮

SPD議員団は1月12日にウクライナ戦争の外交的解決を訴える文書を採択した。ショルツ氏とプーチン・ロシア大統領の電話会談などで、ロシアとの対話の可能性を閉じてはならないとする一方、すでにウクライナへは多量の装備や兵器を供与してきたとして、戦車供与に関しては言及していない。

SPD議員からは、戦車供与が決まれば、次は戦闘機、その次は戦闘部隊と、戦争がエスカレートする事態への懸念が表明されている。また、そうしたエスカレーションの中で、プーチン氏が核使用に踏み切る可能性も否定できない。

ショルツ氏自身はSPD党首を兼ねていないため党内基盤が弱く、左派に余計に配慮しなければならない事情もある。ロシアの出方やドイツ国内のさまざまな意見を見極めて一歩一歩進む、彼の慎重な政治スタイルも大きいだろう。ドイツ・メディアはしばしば、ショルツ氏のコミュニケーションのまずさをやり玉に挙げている。

③の「単独行動はあってはならない」という原則は、ナチ・ドイツが欧州を侵略した反省から、アメリカや他の欧州諸国との多国間協調を重視し、単独行動はしないという戦後(西)ドイツ以来の外交方針で、今でも何かにつけて強調される。

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