ウクライナへの「戦車供与」に折れたドイツの苦悩 根強い反戦世論、欧州安保の「盟主」の座は遠い

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ドイツ製戦車は、ウクライナが2022年3月にドイツに示した供与希望の武器リストにすでに入っていた。この数カ月、ロシア軍が近く大攻勢をかけるとの情報が伝わる中、ロシア軍を押し戻し、領土を奪回するには、ロシア軍戦車に性能が勝る西側の戦車が不可欠として、ウクライナは要求のトーンをあげていた。

レオパルト2は、1978年に生産が開始された第3世代の戦車だが、その後も改良が加えられ、世界で最も強力な戦車の1つに数えられる。これまでに3500両が生産され、ドイツをはじめ欧州諸国を中心に世界14カ国で使用されている。

旧ソ連製戦車の砲撃に耐えられる装甲を持っており、ロシア軍の塹壕を突破するなど威力を発揮すると見られている。欧州諸国に多数配備されていることから、政治決定があれば供与は比較的容易だ。

シュルツ氏に反戦世論の手紙やメール

ショルツ氏が戦車供与をしない理由をはっきり説明してこなかったことが、ドイツに対する不信感を高める結果となった。ただ、公共放送ARDやシュピーゲル誌の報道などを総合すると、以下のことが言えそうである。

これまでにショルツ氏は、ウクライナ兵器支援に関する3つの原則を挙げている。

①ウクライナは断固として支援されねばならない

②ドイツとNATOは戦争に引き込まれてはならない

③(国際社会でのドイツの)単独行動(Alleingang=アラインガング)はあってはならない

このうち戦車供与をためらう理由となる原則は②と③である。

日本と同様、第2次世界大戦の敗戦国であるドイツには根強い反戦平和主義がある。ショルツ氏が自ら明らかにしたところでは、彼のもとには、国民から毎日、ドイツが戦争に巻き込まれることを懸念する数百通の手紙やメールが届いているという。世論調査では、戦車供与への賛否はほぼ拮抗しているが、ショルツ氏としては国内の反戦世論にも配慮する必要がある。

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