失われた30年、復活せぬ日本企業と米国の決定的差 問題にするのを避けてきた不振の最大原因とは?

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最後のまとめとして、以上の考え方と実行手順をまとめておく。

1.不振会社を元気にするために改革を目指す場合、戦略をいじり始める前に、まず「創る、作る、売る」の組織機能が「肥大化」していないかを点検する。事業組織ごとに「創る、作る、売る」のワンセットが含まれていて、自律的に経営のできる小ぶりな体制を整えることを狙う。顧客ないし競合に対して、組織の対応スピードが上がり、自社の強みが最速で発揮されるようなビジネスプロセス・組織のコンセプトを目指す。
2.現実に、ビジネスプロセス・組織の改革を行うのは簡単ではない。社内からさまざまな抵抗が出る。長い年月、肥大化した組織にどっぷり浸かってきた幹部・社員にとっては、今までのやり方がいちばん自然なのである。しかし妥協してはならない。不振企業の再生では、この組織デザインの点検が改革の出発点になるのだ。
3.業績不振企業でなくとも、多くの日本企業がこの組織問題で効率を落としている。それが多くの日本企業において、重要な、隠れた戦略課題になっているはずだが、ほとんどの日本人がそれに気づいていない。
4.前よりも小ぶりになって速く回る事業組織を設計したら、次いで、「気骨のある人材」を選び出し、各事業単位の長に抜擢する。そのうえで、事業毎にビジネスプラン(事業計画)を組む作業を行わせる。
5.そのためには、選ばれた彼らが戦略リテラシーを高めるよう、集中的な戦略教育を行う必要がある。ミスミの場合、CEO就任以来、私は自ら塾長として役員・社員を対象に『戦略と志』講座を開催してきた。この講座はCEO退任後も続けており、その開催日数は20年間で150日前後になっている。
6.各事業責任者はそこで学んだ戦略フレームワークをベースに、自分の「ビジネスプラン」を作成する。戦略論理と「現実の事業の苦しい実態」の間を行ったり来たりしながら、自分なりの突破口を探す。企画スタッフにやらせるのではなく、事業責任者が自分の手でビジネスプランを書き、それを自分で実行し、1年後に更新することを繰り返す。
7.企業トップは、小ぶりになった事業組織の責任者が作るビジネスプランに「それで勝てるのか」を問い続ける。それには社長自身が高い経営リテラシーを持つことが必要だ。簡単ではないが、けれどもそれをあきらめたら、会社を元気にする望みは絶たれる。社長が「自分もあなたの船に乗ったよ」と言える計画を作らせる。社長を頂点に、事業ラインに沿って、ハンズオンの指導を行うことがポイントである。
8.この段階では、立案した戦略は「仮説」に過ぎない。だから、それを実行に移せば「うまく行かない」が頻発する。それでいい。戦略とはそういうものだ。人に作らせたものでなく自分で考え抜いた戦略であれば、たとえうまくいかないことが起きても、①崩れた部分の感知が早い。②各事業は「小ぶりの組織」になっているから、修正行動が迅速になる。③それによって経営者人材としての学びの蓄積スピードも加速される。
三枝 匡 ミスミグループ本社名誉会長・第2期創業者

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さえぐさ ただし / Tadashi Saegusa

一橋大学卒業、スタンフォード大学MBA。20代で三井系企業を経て、ボストン・コンサルティング・グループの国内採用第1号コンサルタント。32歳で日米合弁会社の常務、翌年社長就任。次いでベンチャー再生等二社の社長を歴任。41歳から事業再生専門家として16年間不振事業の再生に当たる。2002年、ミスミCEOに就任。同社を340人の商社からグローバル1万人超の国際企業に成長させ、2021年から現職。一橋大学大学院客員教授など歴任

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