宗教虐待で心を病んだ兄が親から絶縁される残酷 社会的に孤立させるエホバの証人の「排斥」

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洗礼は教団との一種の「契約」といえるが、契約時点で排斥のリスクが十分に伝えられているとは言いがたい。高校1年生で洗礼を受けたある2世信者は、「(バプテスマを受けるとき)いいことばかりを伝えられるが『排斥されれば家族や友達とも一切縁を切らなくてはならないが、それでもバプテスマを受けるか?』という説明はされていない」と話す。

排斥による孤立を、個人の責任として断じるのは教団の一方的な理屈だ。

信仰以外の道を閉ざされる2世

また日本支部は、「排斥された人が不適切な行いをやめ、聖書の規準に従って生活したいという誠実な願いを示すなら、その人はいつでも再びエホバの証人になれます」という見解も示した。この主張は排斥を解くには教義を受け入れ組織に戻ることが前提だ。

しかし、香さんの兄が組織に戻ろうとしないのは、体罰や集会参加の強要など2世として苦しんだ経験を自分の子どもにまでさせたくないからだ。

東洋経済が行った宗教2世へのアンケート調査(2022年10月実施)は、親・家族の信仰によって、社会生活での支障や苦痛を感じたことがあるかという質問に対して、78%の2世があると回答した。苦痛を感じたこととして、最も多い回答が「信仰を強制される」、次が「親が布教活動をする。自分が布教活動をさせられる」だった(詳細は「宗教2世770人の本音、『信仰を強制される』苦痛」)。

宗教2世たちは自らの意志とは関係ない親の信仰によって、幼少期から自らも信仰する以外の道を閉ざされる傾向にある。そのうえ、宗教によって閉ざされた世界がすべてだった彼らは排斥されると、今度は組織からも家族からも排除され、社会的な孤立を強いられる。

2世たちの信教の自由や人権が守られているとは到底言えない現実がある。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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